「お子サマに最適なスポーツと最適な訓練方法を」と“DNA霊感商法”

遺伝子からお子サマに最適のスポーツを診断!

遺伝子に資質が組み込まれていないスポーツでお尻を叩いても、
それは親御サマにとってもお子サマにとっても不幸というもの。

お子サマの遺伝子に応じた種目、練習の方法が見極められるよう、
さらには、練習中に命にかかわる心臓病や脳しんとうを起こさぬよう、
ぜひとも、お子サマの遺伝子をお調べくださいませー。

……てな宣伝モンクで
米国で最近「スポーツ遺伝子検査」を売り出した会社が2つあるそうだ。

American International Biotechnology Services
当該商品のページはこちら。200ドルで、ACTN3他6つの遺伝子をチェックするらしい。

もう1つはAtlas Sports Genetics
こちらは169ドルで、オーストラリアの研究所のテストで ACTN3をチェックする。

どちらのサイトもACTN3について、もっともらしいことが説明されているけど、
この記事の専門家の説明によると、その遺伝子は運動のカギを握る筋肉のプロテインをコントロールする、
ACTN3プロテインは瞬発力のある筋を作る、というんだけど、

でも、それって、それだけのことでしょ……? と思ったら、

Atlasの方の幹部が「誤解している人が多いですが、
ACTN3で未来のマイケル・ジョーダンになれるということじゃないですよ。
検査で分かるのは、そのプロテインがあるかどうか、です。
それで、瞬発力の生きるスプリントに向いているか、それとも
耐久力の生きる競技に向いているかが分かる、ということなんです」

(それなら、ただそれだけのことだと正直に言えば?
「誤解している」んじゃなくて「誤解させて」ショーバイしてるんじゃん)

オリンピック級のアスリートの場合には
確かにACTN3遺伝子が短距離走の選手のパフォーマンスに関係しているらしいのだけど、
その分野の専門家は「99%の人では関係ないですよ」。

American Internationalが検査するACTN3以外の5つの遺伝子は
同社の主張するところでは、パワー、エネルギー、耐久力に関連しているそうな。

さらにそのうち3つは、脳しんとうを起こしやすい人を特定できるんだそうな。

そういう遺伝子変異がある人は、頭に何かがぶつかった場合には
脳損傷のリスクを避けるために、他の人よりも長く休んだ方がいい。

「主なターゲットの1つは子ども。
そういう変異のある子どもが闇雲にスポーツをやっていて、
いきなり心臓病や脳しんとうで倒れないようにしてあげたい。
子どもがトレーニング中にいきなり倒れることはないと親も安心できるでしょ」と同社幹部。

(スミマセン、脳しんとうは、その遺伝子の変異がなくても
レーニング中であれ何してる時であれ、物がぶつかってくれば起こると思います。
ぶつかり方が激しければ、いきなり倒れることだってあると思いますが?

「命にかかわる脳しんとうを起こさぬよう」って宣伝文句、実はこれだけのことだったの……?
それって「誇大」というより、いっそ「ウソ」なんでは?)

脳しんとうに関係すると同社が主張しているのはApoEという遺伝子。
これを「スポーツ遺伝子」として検査に含めることに専門家から異議がある。

というのは、ApoEはアルツハイマー病の関連遺伝子。
子どもがサッカーをやりたいというから、じゃぁ……と、
軽い気持ちで、この会社のサイトを開き、
子どもの口の中を撫でた綿球を送ってみたら、
サッカーで脳しんとうを起こすリスクどころか、
将来この子はアルツハイマー病になる確率が高いことが分かってしまった……
ということにもなりかねない、という批判。

そもそもインターネット上で繁盛している消費者直結(DTC)遺伝子検査は
信ぴょう性も怪しければ、遺伝子情報が正しく理解・解説されるかどうか分からない。
それでも一旦出てくれば、就職や保険での差別にもつながるリスクがある。

こういう会社が出てきたのを機に、遺伝子診断そのものを
ちゃんと規制すべきだ、と専門家。

FDAはこれまでも、このテの検査にはシワい対応をしており、
これまでも閉鎖に追い込まれた計画もあったらしいのですが、
今回は5月11日にAmerican Internationalに対して、なかなかオツな書面を送っています。

「この検査を販売するに当たってFDAの認可は無用であると
御社がお考えなのであれば、そう断定された根拠をご提示ください」

“Ashley療法”論争でFostに動員されたと思しき
シアトルこども病院のオトモダチFriedman Rossが
ここではなかなかいいコメントをしている。

「これは本当に懸念されますね。
スポーツや身体を動かすアクティビティは子どもにとって遊びでなければ。

遺伝子がこれならオマエは必ずや世界の一流選手だ、とか
こんな遺伝子じゃ見込みはないからやめておけ、とか、そういう話じゃないでしょ」



ここまでくると、もうほとんど“霊感商法”の域。

2社の関係者が言っていることを読めば読むほど、
「ゼニになるならゴマ粒だって黒ダイヤモンドだと言いくるめますも~ん」と聞こえて
シラケるばかりか、こんなショーバイがまかり通る時代なのかと悲しくなってしまう。


ちなみに、この記事の冒頭で、
「ヘリコプター・ペアレントという表現を、初めて見た。

Wikipediaによると、
我が子の行動や教育問題に過剰に入れこんで、子どもに付きまとう親のこと。
ヘリコプターがホバリングをするように、子どもに付きまとうイメージから。

つまりは、こういうこと? ↓
幼児化する親、幼児化していく社会(2010/8/27)

そして、こういう未成熟なヘリコプター・ペアレントこそが
「必要を作り出すプロセスがショーバイのキモ」時代のカモなのでしょう。

親が”DNA霊感商法”の餌食にされて
200ドルをぼったくられるのは勝手かもしれないけど、

それに振り回される子どもは、
ゼニさえ儲かるなら鼻糞だってトリュフに仕立てる無責任な大人と
子どもに付きまとってコントロールという名の依存をやめられない未成熟な親との、二重の被害者――。