中国で植物状態になったオーストラリア男性めぐる、医療と移送の費用問題

中国で脳卒中を起こし植物状態に陥ったオーストラリアの男性を巡り、
悩ましい事態が報道されている。

男性は元オーストラリア空軍勤務のThomas Barry Mooreさん。
去年の12月31日に脳卒中の発作を起こし、
その後118日間、中国の病院で意識不明のままだ。

キャンベラ在住の娘のTracy Woolleyさんは
週770ドルを治療費として病院に送金しているが、
来月以降は払い続けることができないという。

父親が植物状態から回復する見込みがないことが明らかになった段階で
生命維持装置を止めてくれと医師らに頼んだが、
倫理問題があるので出来ないと断られた。

Woolleyさんは1月4日にオーストラリア外務省に
中国に行く費用も父親を自国に連れ帰る16万ドルも出せないと
助けを求めた。

3月4日にもらった返事には
Facebookでカンパを募ってはどうかというアドバイスが書かれていた。

外務省によると、病気を理由にした国外退去への費用補助は
非常に限られた特殊な状況のもとでのみ認められるもので、
先方の医療機関が十分な治療に適さないものであるとか、
病状が重く一刻を争うような場合など。

DFAT advice to daughter of dying man: use Facebook
The Canberra Times, April 28, 2011


記事に寄せられたコメントによると、
Moore氏は脳卒中を起こす前に1年以上中国に住んでいたにもかかわらず
現地の医療保険を持っていなかった模様で、

氏の自己責任を問い、
そんな人の医療費をオーストラリアの納税者がかぶるいわれはない、
外務省のいう通りだ、という論調が主流。

ただ、Woolleyさんへの非難の中には誤解もあって、
延命中止の決断をしないのがいけない、決断しなさい、と求めている人たちがいる。

そこでは
「あんたのお父さんは、助かったとしてもどうせQOLは低いよ」とか
「ここで考えるべきはQOLだな」などと
QOLを問題にしていることが気になる。

ここにはいくつもの問題が錯綜しているので
私自身もこの事態が提起する問題をどう整理して
どのように考えたらいいのか、ちょっと戸惑ってしまうのだけれど、

まずは絡まり合ったいくつもの問題を解きほぐしてから
一つずつ整理した上で考えるべきことだと思うのに、
「どうせQOLが低すぎて生きるに値しない人だから」という一事を
持ち込んだだけで、すべての絡まりが絡まりのままで一刀両断されて終わるような
危ういものが、そこにはあるようにも思えて、

それがまた、
「どうせ重症児だから」という一事が実は唯一の正当化の根拠だった
“Ashley療法”論争の危うさに、ふと頭の中で重なった。