呼吸器取り外し命じられたカナダのJoseph君、セントルイスの病院へ


医療の専門職に続いて司法の専門家の手によって切り捨てられ、
すでに失われているのでは……と案じていた弱く小さな命が
命の切り捨てに抗う人たちの努力が起こした思いがけない新展開によって
今なお、繋がれていると知り、

人がひとり、死なされずに生きているということが

多くの人の命が自然の猛威によって
あんなにもあっけなく奪われていった直後だからこそ、よけいに
しみじみと心にしみて嬉しい、Joseph Maraachli君の続報を――。


これまで以下のエントリーと補遺で追いかけてきた
カナダのMaraachli君(1歳1カ月)の事件とは、



入院先の病院LHSCのドクターらが
Joseph君が回復不能植物状態にあるとして
人工呼吸器を外したいと両親に申し入れを重ねたが
家に連れ帰って死なせてやりたいと気管切開を望む両親との間で合意が得られず、
裁判となり、両親の上訴を経て、2月21日月曜日の午前10時を期限に
呼吸器の取り外しが命じられたもの。

その後、世界中のメディア注視の中で取り外しを躊躇する病院と
米国への転院や上訴の決断の間で揺れる両親の間で
事態は二転三転していましたが、

3月13日日曜日の夜、
Joseph君は米国Missouri州セントルイスのCardianl Glennon 子ども病院に向け
飛行機で飛び立ったとのこと。

LHSCは、
「我々は可能な限り本人にとって最善で最も適切な医療を行うべく
あらゆる法的手段を講じてきたが、
両親は法的決定権を行使し退院させた。

転院受け入れの申し出を受ける両親の決断は
カナダ、米国、ヨーロッパの医療の専門家からの強いアドバイスに反して行われたもの」と。

空港まではLHSCがJoseph君と父親を搬送。

その段階では輸送費と医療費を誰が支払うかは明らかではなかったものの
米国のプロ・ライフの活動団体 Priests for Lifeなどが出す模様。

医療機器を積んだ特別仕様の飛行機に医療チームを添乗させ、
1時間あたり何千ドルもの膨大な費用。
病院での小児ICU入院費用は15万ドルにも。

Baby Joseph flown to U.S. hospital
The Toronto Sun, March 14, 2011


今さら膨大な費用のことをあげつらうならば、
最初からLHSCが一方的な呼吸器外しを主張するのではなく、
両親と柔軟な姿勢で時間をかけた話し合いをし、
気管切開の望みも含めた合意の道を探り解決策を探す方法をとることが
最も費用がかからない方法だったに相違なく、

命をつなぐ費用を惜しんで、わざわざ裁判を起こし判決の後には警備員まで増員し、
そもそも病院は、患者のいのちを切り捨てるためにかける費用はいとわなかったのではないのか。

Joseph君の命は、いつのまにか、
大人たちのプロパガンダの象徴としての役割を担い、
そのために膨大な費用が調達されていくのだろうということに
暗澹とした気持にならないわけでもない。

それは、幼い子どものいのちを大人たちが
ある意味で利用し食い物にしているということにもなるのかもしれないし、

また、たまたま、そうした象徴になりそこなった子どもの命は
誰も注意もお金も払わないまま、両親の小さな抵抗もかなわずに、
失われていくのだろう、既に失われてもいるのだろう、と思いもするのだけれども、

ただ、今は、ともかくも、
医療による「生きるに値する命」と「値しない命」の選別、後者のあからさまな切り捨てとに、
ここまでしてでも抗う人たちがあるという事実を素直に受け止め、
その努力の尊さに頭を垂れたいと思う。

命とはこんなにも簡単にあっけなく奪われていくものなのかと、
そのあり様を前に、人の力の無力さを痛感させられている時だけに、
人の手によって人を死なせることのむごさまでを
そこに重ねることはするまいよ……と、祈るような思いになるから。