生命維持の中止まで免罪する「無益な治療法」はTXのみ

米国の「無益な治療法」といえば、
なんといってもテキサスの事前指示書法(別名:無益な治療法 1999)のようですが、

当ブログではこれまで、他にも少なくとも2州にあるとの断片情報を見つけており、
いったい本当のところ、どれだけの州に同様の法律があるのか
ずっと知りたいと思っていました。

長らく探していたのですが、やっとその情報にヒット。
それだけではなく、法学者が米国の無益な治療論について40分に渡って解説してくれるという
なんとも贅沢な講演を見つけたのです。うっしし。


2008年11月7日にオクラホマ大学で行われた
the Second Annual Bioethics Conference“Bioethics and the Law”で、
St.Johns Medical Centeの法学者Jan Slater-Andersonの講演ビデオ。


以前は原稿なのか、それが論文になっているのか、文書をブクマしたのだけど、
いつのまにかファイルがリンク切れになっていて、ビデオだけになってしまった。
さっさと印刷しておけばよかった。


とりあえず前半を聞いたところで、
今日のところは一番の関心事だったことのみをメモ。

現在、
医療提供者と患者または代理人との間で治療に関する意見が対立した場合について
法律で何らかの対応をしているのは以下の11州。

(講演では10州と言われ続けているのですが、同時に示されるのは以下の11州。
後述する理由でテキサスを特例として、残り10州と区別しているのかも?)

アラスカ
カリフォルニア
デラウエア
ハワイ
メーン
ミシシッピ
ニュー・ジャージー
ニュー・メキシコ
テネシー
テキサス
ワイオミング

もちろん詳細はいろいろと異なっているが、

10州すべてが、
「医学的に効果がない」または「医学的に不適切」な治療を拒否することを
医療提供者に認めている。

ただし、治療を「医学的に効果がない」または「医学的に不適切」と決定した段階で、
速やかに患者または代理人に通知することや、

患者の希望に沿った治療を受け入れる医療機関に患者を移送するまで
生命維持治療を続けることなどを義務付けており、

対立が解決しなかった場合に、最終的に(患者や代理人の意思に逆らって)一方的に
生命維持治療を中止することを医療提供者に認めているのはテキサスだけ。


他にも色々、各州法の違いが解説されているのだけど、
あまりにも違いが微妙な上に、早口で、私には1度では分からない。
今後の必要に応じて、もう一度聞くか、文書になったものをもう一度探したい。

ともあれ、「無益な治療」法と呼ぶにふさわしい、
えげつない切り捨て合法化をしているのはテキサスだけなのですね。
悪名が高いはずだわ。

それから、この講演の中で印象的だったのは、

無益な治療の無益概念の定義は今だに確立されたものがないこととか
患者のオートノミーだけでなく、医師のオートノミーも尊重される必要があることとか、
量的無益論では治療の成功率5%がラインになることが多いとか、
無益性を誰が、どういう基準で判断するのかが明確ではないことなどに加えて、

特に、Norman Fostが大好きな、患者のQOLの低さを基準にした「質的無益」について、
医療職だけが判断すると差別に結び付く危険性が指摘されていた。



あと、うわぁ、やっぱり……? と思ったのは、

現在は「死にゆく患者 dying patient」を対象に議論されているが、
徐々に「死に瀕していない患者 non-dying patient」が対象になっていくだろう

それから無益な治療論の舞台も、
病院からナーシング・ホームへとシフトしていくだろう……って。

そういうことなんだろうと、思ってはいたけど、
でも、それって、「死の自己決定権」が如何にウソ八百か、ということでしょう。

この講演がどっちの方向に向かって締めくくられていくのか、
また、いずれ態勢を整えてから後半も聞いてみます。

       ――――――

ちなみに、08年から09年にかけて、
アイダホ州でも無益な治療法制定の動きがあったのですが、なんとか流れたようです。

ただ、こちらの法案は明らかにnon-dying patients も対象に
質的無益論をベースにして、障害者の治療はしないよ、というものだったみたい。




ついでに、無益な治療法の概要をまとめた以下のサイトも見つけた。
http://en.citizendium.org/wiki/Futile_care

ここによると期限を切ることを認めているのはテキサスとヴァージニアだけ、と。

不思議なのは、ヴァージニアは上の11州の中に入っていないことなんだけど、
私が前にヒットした情報のカケラでも、テキサスとカリフォルニアとヴァージニアになっていた。

やっぱり内容がそれぞれ違うから捉え方によるのかしら????
そのあたり、いずれ確認できたら、また追記します。

なお、このサイトの末尾に文献6本リンクされています。