「功利主義は採らない」……南アフリカの人工透析患者選別委員会の模索
その状況をWHOが2008年にまとめた論文がこちら。
1962年にLIFE誌がシアトルの病院の患者査定基準をすっぱ抜き、
世論の非難がまきおこったことから
誰でもメディケアで透析が受けられる制度ができた。
世論の非難がまきおこったことから
誰でもメディケアで透析が受けられる制度ができた。
(例のIHMEの所長Murray考案による医療評価基準DALYに
このシアトルの腎臓透析患者選別と同じ基準が含まれているとの批判が出ているのは
何やら興味深いところです。功利主義的切り捨て医療の話には、なぜ、こうもシアトルが絡む――?)
このシアトルの腎臓透析患者選別と同じ基準が含まれているとの批判が出ているのは
何やら興味深いところです。功利主義的切り捨て医療の話には、なぜ、こうもシアトルが絡む――?)
医療制度の財政のひっ迫で、断られる患者がどんどん増えて
Tygerberg病院では8月には8割の患者を断り、
11月には20人のうち2人しか引き受けられなかった。
Tygerberg病院では8月には8割の患者を断り、
11月には20人のうち2人しか引き受けられなかった。
判断は病院に任されているが、
断るのは「死刑宣告」をする気分だと医師はいう。
断るのは「死刑宣告」をする気分だと医師はいう。
1988年から2003年までに同病院で透析を受けた患者でみると
白人患者の方が非白人患者よりも認められる確率が4倍も高かった。
1994年にアパルトヘイトが終わった後も、病院の選別基準は変わらなかったようだ。
白人患者の方が非白人患者よりも認められる確率が4倍も高かった。
1994年にアパルトヘイトが終わった後も、病院の選別基準は変わらなかったようだ。
最近では民間セクターの透析施設が増えて
白人患者はそちらに移行しているので、このような病院には来なくなった。
白人患者はそちらに移行しているので、このような病院には来なくなった。
リンク文書のタイトルを見ると、腎臓病の末期の(end-stage)患者の選択基準となっている。
そこに至るまで受けさせてもらえないということなのか?
そこに至るまで受けさせてもらえないということなのか?
ガイドラインの最初の概要だけ読んでみると、患者は3つのカテゴリーに分類される。
受けられる人。資源があれば受けられる人。受けられない人。
社会ファクターと医療ファクターを合わせ考えるが特に後者を重視するという。
かつての、社会にとっての当該患者の有益性を問う功利主義の選別は行わない。
受けられる人。資源があれば受けられる人。受けられない人。
社会ファクターと医療ファクターを合わせ考えるが特に後者を重視するという。
かつての、社会にとっての当該患者の有益性を問う功利主義の選別は行わない。
で、ProPublicaが実際に覗いてみた委員会では
患者のスライドが映されて、他職種の担当者が次々に患者について説明する。
患者のスライドが映されて、他職種の担当者が次々に患者について説明する。
こういうのはポイントになる。
バスタブも台所のシンクもトイレもある持ち家です。
これは大きなポイント。
家で安全な透析が可能な患者だということになるから。
家で安全な透析が可能な患者だということになるから。
仕事は農場労働者で給料は月175から220ドル程度。
犯罪歴はなく、33歳の妻と4,9、13歳の3人の子どもがいます。
犯罪歴はなく、33歳の妻と4,9、13歳の3人の子どもがいます。
これらは、あまりカウントされない。
あまりカウントされなくても、医師や看護師やソーシャルワーカーらが
患者がどういう人かを、ともかく語っていきながら、委員会は
かつてのような功利主義の選別にならないように気をつける。
つい、これまでの習慣で、そういう判断に傾いてしまうのが人間だから。
患者がどういう人かを、ともかく語っていきながら、委員会は
かつてのような功利主義の選別にならないように気をつける。
つい、これまでの習慣で、そういう判断に傾いてしまうのが人間だから。
医療ファクターでは特に腎臓移植を受ける体力があることを重視する。
移植で透析不要になれば、その分、透析を受けられる人が一人増やせるからだ。
移植で透析不要になれば、その分、透析を受けられる人が一人増やせるからだ。
どれほど誠実な闘病姿勢か、ということも
主治医の報告で問われるところ。
主治医の報告で問われるところ。
決定とその理由については、患者と家族に十分に説明される。
人種や社会経済的な理由で却下されたのではないと分かってもらわなければならないし、
すべてを明らかにすることが選別の倫理性には不可欠だ。
人種や社会経済的な理由で却下されたのではないと分かってもらわなければならないし、
すべてを明らかにすることが選別の倫理性には不可欠だ。
Life and Death Choices as South Africans Ration Dialysis Care
By Sheri Fink,
ProPublica, December 15, 2010/12/17
By Sheri Fink,
ProPublica, December 15, 2010/12/17
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番組のサイトでは以下のように解説されている。
腎臓の「人工透析」30万人。口ではなくチューブで胃から栄養をとる「胃ろう(経管栄養)」40万人。そして、人工呼吸器の使用者3万人。「延命治療」の発達で、重い病気や障害があっても、生きられる命が増えている。しかしその一方、「延命治療」は必ずしも患者の「生」を豊かなものにしていないのではないかという疑問や葛藤が、患者や家族・医師たちの間に広がりつつあ る。田嶋華子さん(享年18)は、8歳で心臓移植。さらに15歳で人工呼吸器を装着し、声も失った。『これ以上の「延命治療」は受けたくない』と家族と葛 藤を繰り返した華子さん。自宅療養を選び、「人工透析」を拒否して、9月、肺炎をこじらせて亡くなった。華子さんの闘病を1年にわたって記録。「延命」と は何か。「生きる」こととは何か。問いを繰り返しながら亡くなった華子さんと、その葛藤を見つめた家族・医師たちを通じて、医療の進歩が投げかける問いと 向き合いたい。