新生児の遺伝子スクリーニングの“コラテラル・ダメージ”、“発症可能性”に怯え振り回される親たち

新生児への遺伝子診断技術が登場したのは1990年代。
必須アミノ酸の一つを利用できない病気(PKU)の発見を可能にするものだった。

その後、対象となる病気が増えて、米国小児科学会は2005年に
それまでの対象を大幅に拡大し、29の項目と24のサブ項目とを
スクリーニングの対象に義務付けるよう勧告した。

09年には全州で29のうち少なくとも21の病気・障害のスクリーニングを義務付けており、
全項目を義務付けている州も44に及ぶ。

05年の勧告の際、小児科学会の理由は
診断を求めて親が右往左往することを避けるために、というものだったが、

このたび、Journal of Health and Social Behaviorの12月号に発表された
UCLA社会学者らの調査によると、むしろ
発症リスクにおびえ、過剰な予防に執着したり、
医師が無用だと判断しても予防手段を捨てられない親の姿が明らかになった。

中には、感染防止のために母親以外には一切の世話を認めない父親や、
子どもの発症兆候を見逃してはならないと仕事をやめる親まで。

スクリーニングで珍しい病気や障害の発症可能性があるとされると、
何年にも渡って親は医師から教えられた予防手段を守り、
真夜中に子どもを起こしたり食事制限や人との接触を制限し
フォローアップで検査を受けさせる。

しかし多くの場合、何年間も検査結果が陽性にならないまま
やがて子どもたちは成長して、29項目がリスクファクターにならない年齢を迎える。

そうして何年もたち、医師の方はもう心配ないだろうと考えても、
長年おびえ続けてきた親の方が予防体制を解くことに警戒が強く、
医師と親の間でトラブルになることも。

論文主著者のStefan Timmermans教授は、今のスクリーニングは
生まれた直後に「ご出産おめでとうございます。お子さんは珍しい病気を発症するかもしれません。
ただ、我々には確かなことは分からないし、いつになったら確かなことが分かるかも分かりません」
と告げるようなものだと語り、

このような「(発症)待機患者」親子は
新生児遺伝子スクリーニングの“コラテラルダメージ”だとして、
そうした親子を大量に作り出している現在のスクリーニングに疑問を呈している。



この研究が、社会学の人たちによるものだという点が
非常に興味深いと思った。

だから、たぶん、医学の人たちは
この結果をあまり相手にしないのだろうけど、

では医学の分野の人たちは
どこまで、こうしたフォローアップの研究をしているのだろう?

小児科学会が「診断を求めて右往左往することを減らす」ことを理由に
スクリーニングの対象を広げたのであれば、小児科学会にこそ、
その理由の正当性を検証する責任があるはずだろうと思うのだけど。


そういえば、08年にGoogleの創設者Brin氏が遺伝子診断を受けた
パーキンソン病の遺伝子変異が見つかったということで
確率20~80%の発症予防に残りの人生、全力を尽くす、とばかりに
燃えていたけど、あの人は、その後どうしておられるのだろう?