全国平均より35%も自殺率高いOR州で、それでも尊厳死法に消極的だとホスピス批判

9月10日、Oregon州の保健局の報告書で、
同州の自殺率は全国平均よりも35%も高いことが判明。

同州の自殺者は2000年以降増加しており、10万人に15.2人の割合。
全国平均は11.3人。



しかし、
尊厳死法で医師による幇助を受けて自殺した場合には自殺者としてカウントされないため、
実際には、Oregonの自殺者総数はこれよりも上回っており、
この統計は偽りだ、と、Wesley Smithが指摘している。

その上で、州の報告書が対策として
メンタルヘルス強化によるウツ病キャンペーンを検討したり、
自殺念慮のある家族がいる場合には家に銃を置くななどと書いていることに触れ、
「毒物の処方だってやめたらどうか」と皮肉っている。



それでも、そんなオレゴン州ホスピス
尊厳死法に積極的に参加していないと批判する論文が
Hastings Center Reportの今月号に掲載されている。

Oregon州のホスピスを対象にした
尊厳死法の実施方針に関するアンケート調査の結果を報告するもの。
調査したのはOregon州立大学の研究者ら。

2009年にホスピス・プログラムが医師による自殺幇助にどれほど参加したかを知るべく、
56のホスピス・プログラムから方針、ガイドライン、職員研修内容の提出を受け、
その内容を調べたところ、

全く尊厳死法に参加していないホスピスが25%。

27%では、
患者から同法に関する質問が出た場合には主治医に回して
医師以外のケア・スタッフは患者の命を意図的に終わらせることに関与しない。

また、すべてのホスピス
死をもたらす致死量の薬を患者が手に入れたり飲んだりする手伝いを
スタッフに禁じている。

わずかに2、3のプログラムのみが、
患者が自分で飲む際に、職員がその場にいてもいいと認めている。

すなわち、多くのホスピス
尊厳死法を利用して医師による自殺幇助(PAS)を受ける患者の権利」を支援するのは
情報提供までとのスタンスをとっており、

尊厳死法に「中立」の立場をとっている模様。

論文は、ホスピスの消極的な姿勢の理由を、
尊厳死法は医師の関与だけを認めているため、
その他のスタッフの関与が違法になるとの懸念と、
ホスピスの理念に反すると感じていることの2点と分析した上で、

しかし、ホスピスは患者のニーズが満たされる場所であるべきで、
したがってPASもホスピスで適切に行われるべきであり、
このような消極姿勢には法的にも道徳的にも問題がある、と結論づけている。

アブストラクトの結論は以下。

This limited role indicates that questions of legal compliance and moral complicity inhibit hospice collaboration with patients seeking physician-assisted death.

ホスピスがこのように限定的な役割しか担っていないとあれば
法律遵守の問題が生じる。

また、患者が医師による自殺幇助を希望してもホスピスが協力しないことには
道徳上の問題もある。


Hospice and Physician-Assisted Death: Collaboration, Compliance, and Complicity
Courtney S. Campbell and Jessica C. Cox
The Hastings Center Report, 2010 September-October



Oregon州の尊厳死法を利用して自殺した人については、去年、
ほぼ全員がホスピス・ケアを受けていたという情報があり、

C&Cはそれを尊厳死法が緩和ケア充実につながった証左であり、
また同法が安全に機能している証だと解釈しているのですが、

Wesley Smithは、ホスピスの理念に反する自殺幇助が
ホスピスでそれほど多く行われているとしたら、それは
C&Cがホスピスに人を送り込んで患者を誘導しているとしか思えないと指摘していました。

その後、Smithの指摘を裏付けるように、
OR州の「尊厳死」:97%にC&Cが関与していたという情報が出てきています。

また、この時には同時に、
致死薬の処方の大半は一部の限られた医師20人によって書かれたものだということも判明しています。

そういうことを踏まえて、この論文を考えると、
C&Cはホスピスに潜入しつつも、それ以上に協力的な医師を増やすことがかなわず、
苦戦しているということなのでしょうか。

患者は誘導できても、思うようにPASに結び付けられないから、
もっとホスピスは積極的に自殺幇助を行え、と言っている?

しかし、気になるのは、
医師以外のスタッフの関与をそそのかしているかのような論調。

5月に明らかになったベルギーの実態調査でも
法律的に認められているのは医師の幇助であるにもかかわらず、
看護師が患者を死なせる行為に関与していることが明らかになり、
あちこちの国の議論で問題視されているところです。

また、自殺幇助の件数が毎年1割ずつ増えている
オランダでは緩和ケアの崩壊が懸念されています。

オレゴンホスピスの厳正な法律遵守、ホスピス理念の固持こそ、
尊厳死法のセーフガードとして、本来あるべき姿なのでは?

ホスピスは患者のニーズを満たすところだと著者らは言うけれど、
ホスピスは、患者がPASを受けて死にたいと考えなくてもいいようにケアするところ、
ニーズが満たされていないからこそPASで死にたいと患者は考えるのだ……というのが
まっとうなホスピスの考え方なのでは?

オレゴンのC&CがPASを合法化しただけでは気が済まず、
緩和ケアなど要らないからターミナルな人はホスピスでさっさと死なせましょう……と
言っているのだとしたら、

それは、ホスピス
オランダで提案されている、安楽死クリニックのような場所にしようと
提案しているのに等しい――。