佐々木千津子さんの強制不妊手術

知的障害・貧困を理由にした強制的不妊手術は過去の話ではないのエントリーの
②のところで、ちょっとだけ紹介した映画「忘れてほしゅうない - 隠されてきた強制不妊手術」の続編
「ここにおるんじゃけぇ」の上映会に行ってきました。

主人公の佐々木千津子さん(62)は広島在住の脳性まひの女性。

20歳の頃にコバルト照射による強制不妊手術を受けさせられた体験を、
実名を明かし、顔を晒して、語り続けておられます。

私は前作を見ていないのだけど、この続編では、
24時間介護を受けながらの佐々木さんの自立生活が主に描かれていて、

金色やらピンクやら緑やらに染め分けたショートカットの頭で
日々、寒かろうが暑かろうが断固、外出するのだ、
自分が生きていここにいることを世の中に知らせるために……と言い、

買い物の際に店員に言葉が通じなくても
介護者に代弁してもらうのではなく、あくまで自分が何度も繰り返し、
「もっと近くに来て聞いてください」と迫る姿には、息をのんだ。

身体の拘縮に加齢もあって(コバルトの後遺症もあるのかもしれない)身体はもうボロボロだとのこと。
あちこちに痛みが出ていて、売るんかい? というほど大量の薬を飲みながら、
それでも自分らしい暮らしを守り、強制的不妊手術の被害者としての体験を語り続ける。

そんな日常が描かれる中に、
前作の一部や現在の佐々木さんへのインタビューが挿入されて
強制不妊手術を受けさせられた体験が語られていく。

映画の記憶と、上映会でもらった資料から、その概要を以下に。

初潮は15歳の時。
生理の手当ては母親がしてくれたが、そのたびに
「こんなものはなければいいのに」「手術をしなければ」と言われて憂鬱になった。
その手術がどういうものか分からないまま「痛いことは嫌だ」とだけ思っていた。

その後、姉の婚約が自分の障害を理由に解消されたことを知る。
姉は気にしなくていいと言ってくれたが家に居づらくなり
施設に入ることを決意。

今度は施設側が生理の手当てが自分でできなければ受け入れないと言っていると聞かされ、
当惑しているところに母親から「痛くも痒くもない手術がある」と勧められて承諾する。

それでも、最後の日は「さみしかった」。

一週間に渡って卵巣へのコバルト照射。

施設に入所後、体が動かなくなるなどの後遺症に見舞われる。
青い芝の会との出会いを機に、施設を出て自立生活を始める。

はじめは介護者が思うように見つからず、
食事もできず空腹のあまり冷蔵庫に頭を突っ込んでリンゴにかじりついたことも。

自立生活を送り、障害者運動と関わることを通じて、
自分が受けさせられた不妊手術が当時の優生保護法にすら違反するものであったことを知り
声を上げ始める。

佐々木さんは、結婚したいと考えるようになった男性に
子宮摘出のことを打ち明けて、子どもがほしいからそれなら結婚できないと拒否され、
声が出なくなるほど、打ちのめされた体験を持つ。

何も知らされず、承諾させられてしまったが、
子どもが産めなくなるのなら承諾などしなかった、と語る。

2003年から、当時の手術を行った広島市民病院に対して、支援者らと事実解明を求める。

佐々木さんの訴えについては、謝罪はあったものの、
調査しても記録が見つからない、当時の職員にも記憶がないというのみで、
それ以上の進展は今に至るまで、ない。


会場で配布された資料の中に、
99年5月に「世界」に発表された市野川容孝氏の
福祉国家優生学 - スウェーデンの強制不妊手術と日本」という文章があって、

それによると、
日本の優生保護法が1949年に制定され、96年に母体保護法に改訂されるまでの間に
実施された優生手術は公式記録にカウントされているだけでも16520件。
しかも、極めて露骨な強制によって実施された疑いが強いとのこと。

1998年には国連の人権委員会から日本政府に対して
被害者の補償を法的措置によって保障するよう勧告が行われているにもかかわらず、
未だになされていない。

          ―――――――

佐々木さんのお母さんの言葉

「こんなものはなければいいのに」

「あんたには生理があってもしょうがないんだから
手術をして止めないといけない」

Ashley事件からKatie Thorpe事件、そしてAngela事件と、
ここ数年、英語圏で続く重症児への子宮摘出(成長抑制)関連事件の中で繰り返されているのも
これと全く同じ言葉だ――。

「どうせ自分から望んで妊娠することなど生涯ないんだから」
「介護者の負担軽減は、本人の利益にも重なる」

そして、さらに

「生理のケアを人にしてもらわなければならないことには尊厳がない」
「知的障害児・者は生理を理解できなくて非常に苦しむから、ない方が本人のため」
「生理痛の不快や苦痛を取り除き、万が一レイプされた時の最悪の事態も避けられる」
「子宮がんなど病気予防にもなる」

こうして、かつては露骨に言われていた「介護負担」が
「本人のQOL」と「本人の最善の利益」という一見もっともらしいゴタクで覆い隠され、
「そこまですることもいとわない美しい親の愛」の甘ったるいコーティングで仕上げされた、

「重症児のQOL向上のための子宮摘出と成長抑制」が
今、ゴリ押しに広げられようとしている――。