英国の自殺幇助ガイドライン後、初の判断は不起訴

公訴局長DPPのガイドラインが最終的に出されて以来、初めての
自殺幇助事件の判断が出ています。

去年7月14日のエントリーで紹介した
英国の著名指揮者夫妻がDignitasでそろって自殺という事件で、

夫妻がDignitasを訪れた際に泊まるスイスのホテルを予約し
スイスまで付き添っていった息子の行為について
DPPは自殺法で定める自殺幇助に当たると判断したうえで、
しかしガイドラインの公益ファクターを考慮して
起訴することは公益にならない、と判断。

不起訴に。

No charges in assisted suicide case
Police Professional.com, March 25, 2010


これで、自らの意思で死にたいと決めた人に近親者がDignitasまで付き添って行くことは
起訴に当たらないとガイドラインによって明確に示されたことになるのでしょう。

ガイドライン以前にも、
事故で全身が麻痺した絶望から自殺したいと望んだ23歳の息子を
Dignitasに連れて行った両親が不起訴になったJamesケースもあるので、
十分に予測された結果ではありますが、

Jamesさんのケースでは、
必要だったのは自殺幇助ではなく障害を負った絶望から立ち直るための支援であって、
これこそ「死の自己決定権」の「すべり坂」だと指摘されているし、

また、今回の著名指揮者Edward Downes卿夫妻のケースでも
妻は末期がんでしたが、夫の方は健康でした。

「妻を失っては生きていけないから、一緒に死にたい」というのが夫の自殺の動機。

そういう動機で死にたいという人に毒物を提供して飲ませるDignitasも、
そういう動機で死にたいという人を、他人に毒物を提供してもらって死なせるために
それが違法とされていない国へ連れていく人を不起訴にする英国公訴局の判断も、
ぜんぜん、釈然としない。

そういう人を起訴することに公益がないというけど、起訴しないとの判断によって
「ターミナルな人と一緒に死にたいという健康な配偶者は、死なせてもOK」というメッセージが
世間に発せられてしまうとのだとしたら、それは公益に反するのではないのか……。