2歳で双極性障害診断され3種類もの薬を処方されたRebecca ちゃん死亡事件・続報

1月16日に以下のエントリーで触れたRebecca Rileyちゃん事件の続報。


2006年に4歳のRebeccaちゃんが安定剤のオーバードースで死亡。
両親が「静かにさせるために」意図的に多量に飲ませたとして
殺人罪に問われていた事件です。

1月の記事では事件の事実関係がよく分からなかったのですが、
以下の心理学関係のサイトの小児科医のブログ記事によると、

2月9日に母親に第2級殺人で有罪が言い渡されています。
父親の判決は来月で、こちらは殺人罪で起訴されている、とのこと。

Mother Guilty of Murder – Pediatric Bipolar Disorder Innocent
Lawrence Diller,
Psychology Today, February 20, 2010


で、このブログ記事の趣旨はというと、

母親が有罪になったことで、
Rebeccaちゃんに3種類もの強い鎮静効果のある精神科薬を処方した
Kifuji医師の方は無罪放免が決定した点をとりあげて考察、疑問を呈するもの。

主な論点は、

Rebeccaちゃんに処方された薬がFDAの認可の適応外の処方だったことから、
現在の米国では、医師免許さえあれば、FDAが認可している限り、
どんな目的・理由でも処方することが可能であることの問題を指摘。

・Kifuji医師はRebeccaちゃんが2歳の時に多動があるとして薬を処方し始め、
3歳の時に双極性障害に診断名を変更している。
その際には、母親の言うことだけを材料に診断したと裁判で語っている。
また同医師は9歳と7歳の兄弟にも家族の既往歴などから双極性障害を診断している。

Rebeccaちゃんが死んだ直後、Kifuji医師は診療を停止し、
ライセンスも一時的に停止されたのだが、現在は職場復帰(Tufts大)している。
大学側はRebeccaちゃんへの診療は通常の医療スタンダードの範囲だと主張し、
当初からKifuji医師を擁護していた。

・しかし、精神科以外の医師に、3歳児が3種類もの精神科薬を処方されていたと話すと、
誰もが信じられないといい、その医師こそ被告席に座るべきだと考える。

・そのあたりには、事件がMassachusetts州New Englandで起きたという事実の
特異性があるのではないか。

Tufts大学と、あのBiederman医師が勤務するMGHとの距離はごく短い。

Biderman医師と言えば、
2歳児、3歳児に双極性障害を診断して薬を飲ませる風潮を作った人物で
児童精神科医療における巨星だが、一昨年から去年にかけて
製薬会社との癒着が次々に明るみに出た。
(詳細は文末にリンク)

その「お膝元」で起こった事件であるだけに、
同じ事件がそれ以外の地域で起こった場合以上に、
Kifuji医師を擁護する勢力が大きかったのではないか。

・そもそも乳幼児に双極性障害を診断できるものなのか、にも疑問を呈し、
そのうえで、2013年に改定される精神科の診断基準では
事実上、小児への双極性障害の診断は放棄されて、
temper dysregulation disorderとして、
薬物治療よりも環境を変えることに重点が移った、と。

・現在の社会状況と精神科医療の多忙の中で
やむを得ない現実として受け入れられてしまっている節もあるが、
双極性障害の診断による子どもへの安易な精神科薬の投与については
第2、第3のRebeccaちゃんが出ないうちに見直すべきである。


私が、すごく気になるのは、
この人が最後に、「ついで」のように書いている部分で、

双極性障害を診断されるような子どもらでは
彼らが置かれている家庭環境に問題がある場合が多く、
現実には薬以外の介入が難しいために
薬で対処でもしなければ子どもが施設に入れられることになる、
施設に入れられれば、どうせ何種類もの薬を飲まされてしまのだから、
忙しい診察室で毎日毎日こういうケースに直面しては
一日に何度も、そういう倫理的な判断を迫られる医師にとって、
子どもたちを家庭や養子制度の範囲内に留め置いて
施設に入れることを避けるための“最後の手段”になっている。


私にとっては、何よりも肝が冷えたのは、
この最後の部分の論理が、Ashley療法の擁護論とそっくりだということ。

重症児が施設に入れられると、それはもう悲惨この上ないことなのだから
(必ずやレイプされるというトーンまで)
ホルモン大量療法や外科手術で健康な臓器を摘出してでも
いつまでも親に在宅でケアしてもらえることが本人の幸せ――。

それほどひどいなら親亡き後への親の不安を払しょくするために
米国の施設ケアこそ改善する必要がある、と指摘する声は
倫理学者のArt Caplan から論争のごく初期に出た以外には、
どこからも出ないままに。

そして、もう一つ、肝が冷えるのは、
こんなふうに精神科薬で社会に都合のいいように人をコントロールすることの正当化の論理が成り立つなら
つい先日、日本の製薬会社の主催したセミナーで使われていた
QALYの論理とも通底していくのではないかと思われること。

認知症患者にドペジネル塩酸塩を使ったら本人と介護者のQOL効用値が上がった、
薬を使って本人と親のQOLを維持できるなら、それもまた治療の利益であり、
そこに医療費削減効果もあるならば、それはコスト効率のよい優れた医療である、と。

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Kebichanさんのブログ「精神科医の犯罪を問う」に、
2008年にCBSがこの事件を取り上げて母親にインタビューした番組が紹介されており、
Biederman医師も登場しています。

とても興味深い記事なので、以下にリンクさせていただきました。


【4月14日追記】
Kebichanさんのブログが日本語の続報を紹介しておられます。
4月4日に父親の方にも有罪判決。