Adrienne Aschの、かなり醜い言い訳

Dr. Landosのコメンタリーに続き、
AJOBのDiekema&Fost論文に対するAdrienne Asch のコメンタリーを読みました。

批判の論点は主に、

・Diekema & Fost が用いている功利主義的な検討(利益vs リスク/害)では不十分だが、
彼らの功利主義的な検討そのものも不正確である。

・2人は、成長抑制を行うか、または成長したら施設に入れるかの
2者択一しかAshleyにはないかのように論じているが、それは偽り。
ALSのような重症者を含めた多くの障害者が地域で暮らしている現実を考えれば、
社会資源さえ十分であれば、成長抑制を必要とする親の懸念は払しょくできる。

・Diekema&Fostのもう一つの誤りは、Ashleyの認知機能の低さを正当化に使い、
自己意識がある人にしてはならないことでも、自己意識のない人にはしてもよいとの
線引きを行っていること。

ここには2つの誤りがある。
1つは、道徳的に許されない行為は、相手がどんな人であれしてはいけない行為である。
レイプが何かを分からない人に対するレイプは犯罪であり、これは判例がある。

また、Ashleyの認知程度は医師らが考えているよりも高い可能性がある。

Growth Attenuation: Good Intentions, Bad Decision
Adrienne Asch, Yeshiva University
Anna Stubblefield, Rutgers University-Newark
AJOB, January 2010


論点は、これまで多くの人が指摘してきた点とだいたい同じです。

実は成長抑制は身体障害からくる介護負担軽減を目的にした行為でありながら
知的能力の低さをアリバイにして障害者の中に巧妙な線引きをしている点、

そして、世間の人や障害学や障害者のアドボケイトの中にも、
無意識にそういう線引きがあるからこそ、それがまかり通ってきたのだという点は
当ブログでも以下のエントリーなどで指摘してきました。



私はAschのコメンタリーには、ずっと、
一方ならぬ関心を持って心待ちにしていたのですが、

それは、Aschが
シアトルこども病院、Truman Katz 生命倫理センターが作った
成長抑制ワーキング・グループのメンバーの1人だったから。

09年1月のシンポ
成長抑制には倫理的に問題はなく、重症児に絞って一般化しよう、
それについては特に裁判所の命令など必要ではない……という
「妥協点」を発表した、あのWGです。

私は、このAschのコメンタリーの意味は
その内容よりも、むしろ最初のページの脚注にこそ、あるんでは、と思う。

One of us, Adrienne Asch, is a member of the Seattle Growth Attenuation and EthicsWorking Group that recently concluded work on a statement on the Ashley X case entitled “Evaluating Growth Attenuation in Children with Profound Disabilities” (Diekema and Fost are alsomembers of that group). Asch signed the group’s statement in support of the process through which the statement was produced,although she does not support all the conclusions drawn in the statement, as is evident from the following commentary.

WGのメンバーとして、
成長抑制は一般化に値すると評価する結論にAschも署名をしたが、
それは、そのstatementが作られたプロセスを認めて署名しただけであって、
このコメンタリーで明らかなように、その結論を支持しているからではないのだ、と。

んな、バカな――。

内容を支持できないのに、
プロセスは支持するから署名するなんて、筋が通らない。
署名というのは、どんな言い訳をしようと、内容を了承する行為です。

なんて醜い言い訳をするんだろう。

コメンタリーのタイトルでも、冒頭の部分でも、わざわざ
「間違っていたのは決定と、その過程であって、意図じゃない。意図はよかったんだ」と断って
自分の批判の対象から、“Ashley療法”の意図(つまり親の意図)を切り離しています。

そのタイトルは全く内容と合っていないし……。

やっぱりあれは、メンバーの大半をワシントン大学の職員で組織した、
最初から「結論ありき」のWGだったのでは?
(04年5月の「特別倫理委」と同じように)

障害当事者で、しかも障害学の権威とまで言われて、
世の中の障害者に対する差別とずっと闘ってきた人なのだから、
WGの中でも、この人が闘わなかったはずはない……とは思う。

それでも署名せざるを得なかったのだとしたら、
それは、よほどのことだったのでしょう。

Aschさん、あなたには他に、
勇気を持って語るべきことがあるのではないのか……と思う。