Lantosコメンタリー、Ashley事件のデタラメを指摘

AJOBの1月号に掲載されたDikema&FostのAshley論文と、
それに対するコメンタリーの一部を手に入れてくださった方があり、

今、個人的に一番注目しているLantos医師のコメンタリーを、まず読んでみました。

It’s Not the Growth Attenuation, It’s the Sterilization!
John Lantos, Children’s Mercy Hospital
AJOB, January 2010

要旨は、というと、

「子宮摘出に、非公開で透明性も公正性もない倫理委の検討で済ますなど、もってのほか。
そもそもAshleyケースに関する手続きもデタラメなら
Diekema医師らの論文も大デタラメ以外の何でもないっ」
ということを、もう少し上品に論理的に突っ込んでいるもの。

批判の論点は、ほぼ当ブログが指摘してきた通りで、

① 2003年にDiekema自身が知的障害児への不妊手術について書いた慎重な条件が
Ashley事件ではことごとく無視されている。
Diekema医師の2003年論文は彼自身が裁判所の命令の必要を知っていた証拠。
そのDiekemaが委員長を務めた倫理委で何故こんなことができるのか。

この点に関する詳細は以下のエントリーに。


② 現在の論文でDiekemaもFostも
道徳的に問題はないのだから裁判所の検討など無用だと主張するが、
問題はないと確信しているのならばこそ、堂々と裁判所で審理に臨めばどうか。
そうすればまっとうな前例となったものを、
間違ったプロセスで、間違った前例ができてしまった。

(これをこそ、私は2007年の論争当時から、ずっと一貫して言ってきたのです。
 Ashley事件は「前例」にしてはならない、あまりにも「例外」的な事件なのでは、と)

③ これまでDiekemaらが書いた論文での隠ぺいとマヤカシの多さも
例えば the bizarre opaqueness of a supposedly scientific paper と表現。
(科学論文であるはずのもので、なんとも奇怪な曖昧さ)

ここで指摘されているマヤカシは
2007年の論争当初から当ブログがずっと指摘し続けてきたことですが、
Lantos医師の指摘の中には、これまで当ブログが見落としていたものも含まれており、

・2006年論文以降、身長を抑制する目的を謳いながら
肝心のAshleyの身長についてパーセンタイルを挙げてはいるだけで
実際の身長、骨年齢のデータが挙げられていない、
最終身長がいくらになると見込んでいたのかの予測データも出てこない。

(この点はSobsey氏も指摘していたような気がします)

・2010のDiekema&Fost論文でも
「中立の内分泌医が最終身長の抑制効果を認めている」と書き、
誰がどのようなアセスメントをしたのか、具体的なデータはない。

・乳房切除が男児に行われていた事例を挙げるが、
一方、女児についてのデータはない。
大きな乳房が不快だからと思春期の女児から切除された症例は1例もない。


ただし、Lantos医師のコメンタリーには事実誤認が2つあります。

Diekema医師はAshleyケースを検討した倫理委の委員長ではありませんでした。

これは当ブログの2007年6月のエントリーで確認済み。

もっとも彼はAshleyケースの担当倫理学者だったし
問題の倫理委にも出席しているのだから
Lantos医師の批判そのものは有効だし、

そもそも論争当時
メディアに「委員長だった」と思わせるようなミスリードを行ったのはDiekema自身。

倫理委については、
「Diekema医師が委員長だった」
「倫理委ではなく施設内審査委員会だった」
「倫理委のメンバーは40人もいた」
「倫理委には外部の人間も含まれていた」
など、事実と違う情報が多々流されました。

少なくとも論争当時、自分がインタビューを受けた記事や番組では
誤情報を訂正する機会はいくらもあったはずですが、
Diekema医師はそれを一切やらず、
誤解が独り歩きするに任せました。

その方が、
「まっとうで信頼に足りる、大きな委員会が承認したのだから正しい」
「Diekema医師は当該ケースの担当者というよりも中立な委員長として
正しいと判断してしゃべっている」と
世論が誘導されてくれると望んだからでしょう。

(実際に2007年の論争当時には、彼が望んだ通りに世論が誘導されました)

シアトルこども病院はWPASとの合意を守っていると誤解している。

こちらの事実誤認はQuellette論文Koll論文にも共通していますが、
極めて重大です。

Lantos医師のコメンタリーの末尾は
「病院は、自分の病院の倫理学者の議論にもかかわらず、
正しいアプローチを行っている」。

――いいえ。行っていません。

シアトルこども病院がWPASとの合意を実行しているかどうか
その後、いっさい確認されていません。

病院が作ったのは不妊手術へのセーフガードのみ。
成長抑制のセーフガードは恐らく最終的に成立していないと私は考えています。



詳細は、以下のエントリーに。