この10年の米国の生命倫理の流れを Caplanがまとめ「ハイテクよりも足元の問題を」

2000年当時、生命倫理界隈の最大の関心事といえば
クローニング、ES細胞研究、それからバイオ・テロリズムだった。

その後の10年で、いろんなことがあった。

シャイボ事件もあった。
製薬会社と研究者の癒着もあった。
ハリケーンカトリーナでは危機状態での医療者の義務も問題になった。
遺伝子検査も議論になった。
ドーピング、義足の選手のオリンピック参加も話題になった。
臓器売買も米国の病院で見つかった。
WA州がORに続いて自殺幇助を合法化した。
癌を予防するワクチンGardasilが初めて登場した。

で、クローニングは、いったいどうなったのだろう?

もはや研究目的のクローニングしか行われてはいない。
なぜなら、そこにしかゼニがないからだ。

2009年が終わろうとしている現在、われわれが頭を痛めているのは
医療制度、豚インフルエンザ、肥満の3つ。

これだけ遺伝子研究が進み、脳科学が人間の脳について理解を深めているというのに
肥満に対処するとっかかりすら掴めていない。

これら基本的な問題には
ちょちょいと手を加えて簡単に終わるような解決策(easy fix)など存在しない。

この10年の教訓は、
ハイテク問題にフォーカスするよりも、
まずは、こうした基本的な問題に対処する方が先、ということでは?



Ashley事件に際しても「これは easy fix だ」という批判が出てきていましたが
Caplanのいう easy fix こそ、まさしく当ブログのいう「科学とテクノの簡単解決」。

私は彼の本は2冊しか読んでいないのですが
あちこちのメディアでの発言とあわせ考えると、
もともとCaplanは科学とテクノの「すべり坂」については比較的楽観論者で

核兵器問題を解決してきたのと同様に、
多少のことはあるとしても最終的に人類は賢明な選択をする」という持論の持ち主。

だから、まぁ、クローンが研究でしか作られないのなら、
それもその「賢明な選択」と考えて話を終われるのかもしれないけど、

でも、もしかしたら、彼が言っているように、
ハイテクの問題がさほど大した問題じゃなかったから影を潜めたわけではなくて、
むしろ、ハイテクがいろいろやってきたことによって豚インフルが登場してきたり、
これだけ肥満が異常に広がってきたり、また医療費の高騰がもたらされたのかもしれず、

それでも、さらに医療制度の問題にも、肥満の問題にも、
その科学とテクノの簡単関係 easy fix でもって解決を図ろうとしているのが
今後の10年の方向性じゃないのか、という気が私にはして、

Ashley療法論争の頃のCaplanは好きだったのだけど、
やっぱり、ちょっと、いくらなんでも楽観的過ぎるんじゃないか……と思ってしまう。


それから、もうひとつ、気になることとして、
シャイボ事件のシャイボさんについて、
死後の解剖でもろもろの機能や感覚すら失われていたことが確認された、と書かれていること。

シャイボ事件については私は詳しいことを知らないのだけど、
ビデオを見る限り、そういう人がああいう目の動きをするというのは、ちょっと信じられない。