「英国議員53%が自殺幇助を支持」のカラクリ

17日のエントリーで、
「英国下院議員の53%が自殺幇助合法化を支持」との調査報告を取り上げましたが、
そこでも書いたように、これ、な~んか、怪しげな調査だと思っていました。

そしたら、いかに怪しいかという話が、
やっぱり反対ロビーの方から出てきました。

Times euthanasia poll of MPs is ‘out of date’
The Christian Institute, December 18, 2009


まず、私も前のエントリーで取り上げた通り、
ガイドラインのコンサルテーションが終わるのに合わせて公表というタイミングが怪しい。

しかも、この調査、実は6月8日から7月31日にかけて行われたものだというのです。

夏からの今までの数ヶ月間に、自殺幇助合法化関連では
スイス当局がDignitasをはじめとする“自殺ツーリズム”を懸念して
全面禁止を含めた規制の検討に入ったことや、

オランダの安楽死法を成立させた政治家が
法の成立以降、終末期医療がお粗末になったこと、
多くの患者は「不安から」安楽死を選択していることを認めたこと、

英国でも、Jack Straw, Vince Cableなど、有力な政治家が
もともと反対を表明しているBrown首相やCameron野党党首に並んで
反対の声を上げるなど、

さまざまな動きがあり、
議員の考えは変わっている可能性があるのに、
いまさら夏の調査結果を持ち出すことはないだろう、と。

そして、なんと言っても怪しげなのは、こちらのカラクリ。

私は前のエントリーで取り上げた時に、
なぜこの調査結果が「医師の権利」の問題として報道されているのかを不思議に思い、
推進派ロビーの問題だとしてもメディアも無責任すぎると指摘しましたが、

やはりカラクリはそこに潜んでいたのです。

なんと、この調査に用いられた質問とは

If a doctor in England or Wales helps a terminally ill, but mentally competent adult patient to die when directly requested to do so, by the patient, should that doctor be prosecuted or not?

もしもイングランドまたはウェールズの医師が、ターミナルな病状ではあるけれど、意思決定能力のある成人の患者から、直接そうしてほしいと求められて、その患者の死に手を貸したとしたら、その医師は訴追されるべきだと思いますか?

やはり思った通りの問題の摩り替えが、調査の質問の設定段階で行われていました。

17日のエントリーで指摘した通り、
この問いは、患者自身が幇助を求める権利がまず前提されなければ、派生しない段階のものです。

この問いを発することによって、質問者はあらかじめ
「そういう患者には医師に自殺幇助を求める権利がありますか」という問いに
回答者に代わってYesと答えてしまっている。

なんと巧妙なヤリクチでしょうか。

こういうカラクリがあったからこそ、記事のタイトルも
「医師が患者の死を手伝う権利を議員が支持」でなければならなかったのですね。

しかし、
この質問への答えがYesだったとしても、
それが「患者の死を手伝う医師の権利」を支持するものだと果たして言えるのか。

それは、せいぜい
「患者の自殺幇助を求める権利が認められた場合に
それに応じて行動しても訴追から守られる権利」が医師にはある、というに過ぎず、

「患者の死に手を貸すこと」を「医師の権利」として認めることとの間には、
非常に大きな距離があります。

後者の「医師の権利」が意味するものの危険を考えたら、
問題のすり替えにしても、こんな危険な言辞を安易に振り回さないでほしい。

しかも6月・7月といえば、
英議会ではDebby Purdyさんの訴えを受けて、議論の焦点は、
自殺希望の人をスイスへ連れて行く家族や友人の行為の免罪を法制かするかどうか、でした。

それも7月7日には上院で、法改正は否決されているのです。

DPPのガイドラインにも同じことが言えますが、
議論されている問題をきちんと厳密に区別することなしに、グズグズにすることで
“この機に乗じて”自殺幇助そのものの合法化へと舵を切らせたい人たちが
英国では、目下、うようよと蠢いている。

そして、こう見るに、おそらくは
Times も Daily Mail も、そちらの陣営のようでも……。