イエスが守ってくれるから死なないと断食する統合失調症患者の栄養補給は「非人間的な無益な治療」(豪)

オーストラリアで今度は統合失調症の患者を巡る
「死の自己決定権」・「無益な治療」ケースです。

先日来、オーストラリアで
自殺希望の四肢麻痺男性に栄養と水分を拒否する権利が認められたRossiter事件を
3度のエントリーで追いかけたばかりですが、
(詳細は文末にリンク)

今度は統合失調症の69歳の男性(ルーマニアからの移民)が
断食することで神に近づける、断食してもキリストが守ってくれるから死ぬことはないと信じて
もう2週間も食事を取らず、体重が41キロに落ちていることについて、

この患者に無理やりに栄養を取らせる(feeding)のは非人間的であり無益であるとして、
病院の医師らがその判断の違法性の確認を裁判所に求めた。

この男性の法的ガーディアンである首都特別地区(ACT)のPublic Advocateは医師らの見解に同意しているが、

ACT以外の法律圏では法的ガーディアンに治療の停止への同意を認めている一方、
ACTでは法的ガーディアンが同意できるのは治療することについてのみとなっているため。

前のRossiter氏の事件でも、同氏に密着して死に方を指南している
オーストラリアのDr. DeathことDr. Nitschkeがこの件にもすかさず登場して
ACTでも法的ガーディアンに治療差し控えと中止への同意ができるようにすべきだ、と発言。

Nitschke urges ACT law change
The Canberra Times, August 26, 2009


いったいACTの裁判所はどういう判断を下すのか――。


「死の自己決定権」と「無益な治療」論とは
どんどん距離が近くなっていて、いずれ近いうちに重なると思ってはいたのだけど、
米国よりも先に、まずオーストラリアで重なるというのは、ちょっと予想外でした……。

しかし、精神障害者を念頭に「警察による自殺幇助」なる事件のカテゴリーが出てきた米国警察の姿勢も、
精神障害者が食べたくないのは本人の勝手だから放っておいて死なせましょうという
オーストラリアの医師らの姿勢も、つまるところは同じでは。

精神障害者は支援にも治療にも値しないから
自分で好きなように死んでもらいましょう……と?


【30日追記】
その後、気がついたのですが、

この男性は「これで死んでもいい」と思って食べないのではなく、
「自分はこれで死ぬことはない」と考えて食べないのだから、
決して死を望んでいるわけではありません。

そこに「死の自己決定権」のアドボケイトであるDr.Nitschkeが
のこのこ出てきて発言することそのものが、とてもおかしい。

つまるところ、障害者については自己決定でもなんでもなく、
勝手な代理決定によって体よくお払い箱にしてしまいたいだけだという、

まるで、その証拠そのもののような話――。