MSの教育学者がヘリウム自殺、協力者を逮捕(英)

Cari Loderさん(48)はロンドン大学教育学部の元講師。
かつて数種類の薬を併用するとMSの治療になることを偶然に発見し、
自ら進んでその治験に参加した“パイオニア”。

そのLoderさんが6月8日にSurreyの自宅で
ヘリウム自殺。

予めFinal Exitの指南書を買って読み、
頭にかぶるフードはインターネットで購入していたとのこと。

誰の助けも得ていないとする遺書があったが
警察は手を貸したものがいると見て捜査。
近所の80歳の男性を逮捕した。(現在保釈中。)

自殺幇助合法化に向けて活動する“圧力団体”(Times)Friends at the End (Fate)のメンバーで
GPでもある Dr. Libby Wilsonが死の前にLoderさんと話しており、
症状が進んでからのことを考えると恐ろしくて、それよりも
永遠の眠りに付かせてくれる薬を飲む方を選びたい、と言っていた、と。

「私はこれまでずっと自立してきたし、自分の生活は自分で決めてやってきた。
障害はあっても、ここで一人で暮らしてきたのよ」と言っており、
絶対にケアホームなんかには入らないと決めていた、とも。

Loderさんの自殺について
自殺幇助合法化を求めて活動する人たちからは
「自殺幇助が合法化されていないために、Loderさんは死ななくてもいい時期に
死期を早めて自殺しなければならなかったのだ」
「いざという時には医師が死なせてくれるという安心感があれば
彼女は安心して、もっと先までがんばって生きることができたのに」などという声が。



この記事で私が注目したいのは、

・ 自殺の前にFATEの関係者がLoderさんと明らかに接触していること。
米WA州の尊厳死法適用の最初の2例でC&Cが当初から希望者の支援に入っていたことを思い出します。
しかも、この事件では、それがGPだというのだから恐ろしい。

・ Loderさんが語ったとされる自殺の動機は
例の、事故で首から下が不随になった23歳の元ラグビー選手の
「セカンドクラスの人間として生きるのは耐えられない」といった
自殺の動機と基本的には同じで、

いわば“障害者の中のエリート”として生きてきたLoderさんが
もっと重度の障害者と自分との間に無意識のうちに線引きをしていたということでは?

で、健常者だった人が「障害者になるなんて死んだ方がマシ」といい
障害がある人が「もっと重度の障害者になるなんて死んだ方がマシ」といって
自殺することを容認・擁護する社会というのは、
おそらくは彼らの障害観を共有している、ということでしょう。

それならば、その障害観が自殺幇助合法化議論だけでなく
無益な治療論や障害胎児・新生児への対応、“臓器不足”問題にも
影響していくのは必至──。

私はAshley事件の最も大きな罪悪の1つは
重症重複障害児・者とその他の障害児・者の間に明確な線引きを行ったことだと思う

今の医療倫理の動向の中で、その線引きが意味することの重大さを思うと、
本来前例となるはずのなかった偶発的な事件だと思われるだけに
なんという取り返しの付かないことをしてくれたのだ! と、お腹の底がかっと熱くなる)

・ Loderさんの死が、自殺幇助が合法化されていないことによって不当に早められたとする
 合法化推進派からの非難の声は、
 「議会で今行われている審議で法律を明確化してくれないなら
 もっと先でいいと考えていた自殺を早めて、スイスで一人で死んでやる」
というDebby Purdyさんの言い草とまったく同じで、
ほとんど子どもが駄々をこねるような脅迫じゃないか、と思う。

でも、死の自己決定権を主張している人が
誰かの自己選択による自殺に対して人が罪悪感を持つことを前提に
こんな恫喝めいた台詞を吐くというのも変な話。