「大切な人が脳卒中を起こしたら介護者として心得ておきたい15の知恵」(米)

先月、米国心臓協会脳卒中部門の介護者支援のエントリーで書いたように、
5月は米国の脳卒中啓発月間(スタートは1984年)でした。

National Stroke Association (NSA)のサイトを見ると、
今年の啓発の柱は3本で、「予防」「早期発見」「脳卒中サバイバーと介護者への支援」。

一方、日本脳卒中協会によると、
日本でも2002年から5月25~31日は脳卒中啓発週間とされているのですが、
こちらのサイトにある啓発週間情報を見てみると、
「予防」と「早期発見」のみで
「本人と介護者への支援」という視点がすっぽり抜けています。

これまでにも、あちこちのエントリーで書いてきましたが、
日本のいわゆる“専門家”の考える「支援」は
実は「指導」であり「教育」であって、肝心の「支援」がないのでは、と
私はずっと感じてきたので、

5月の脳卒中月間を機に、
NSAよりもさらに脳卒中サバイバーと介護者の支援に力を入れている
American Stroke Association(ASA)から出された
「大切な人が脳卒中を起こしたら介護者として心得ておきたい15の心得」を紹介したく、仮訳してみました。

(医療保険制度が日本と大きく異なっている点は理解して読む必要があるとは思いますが、
リハビリ制限に関しては日本でも有効なアドバイスです。)

大切な人が脳卒中を起こしたら介護者として心得ておきたい15の知恵

1. 知らないことは尋ねましょう。あなたの大切な人が飲む薬について、副作用も含めて、きちんと把握しておきましょう。疑問に思うことは医師や看護師、セラピストに尋ねましょう。脳卒中の直後や回復期の医療について、またリハビリテーションについても、はっきりと説明を受け、資料をもらいましょう。

2. 脳卒中を繰り返さないためリスクを減らしましょう。一度脳卒中を起こした人が治療の注意を守らなければ再び脳卒中を起こす確率が高くなります。健康的な食事、運動、正しい服薬、定期的な検診が大切です。

3. 回復は様々な要因で変わります。脳卒中が起きた部位、脳が受けたダメージ、患者さんの意欲や介護者のサポート、リハビリテーションの質と量、脳卒中を起こす前の健康状態など、回復には様々な要因が関わっています。脳卒中はどれ1つとして同じではなく、脳卒中サバイバーも1人として同じではありません。回復を他の人と比べないようにしましょう。

4. 回復は短期、長期の両方で考えましょう。通常、最初の3~4週間で最も早い回復は起こりますが、中には発作後1年または2年が経った後になって、まだ大きな回復を見せる人もあります。

5. 症状によってはリハビリテーションを。次のような兆候があったら、理学療法士または作業療法士の支援が必要と考えましょう:めまいがある。バランスを崩して転倒する。日常生活で歩行や移動が困難。止まって休憩しないと6分以上歩き続けられない。それまで楽しんでいた娯楽や家族との外出を楽しまなくなった。日常生活動作に手助けが必要となった。

6. 転倒をあなどらないで。脳卒中の後での転倒は誰にでもあることです。ひどく転んだ時や、転んだ後に強い痛み、あざ、出血があったら、救急病院で診てもらいましょう。怪我のない、ちょっとした転倒でも、半年間に2回以上あるような場合には医師や理学療法士に相談しましょう。

7. 機能の回復具合を測るとリハビリ内容を変えることができます。機能回復の度合いによって、急性期リハをどれだけ受けられるかが変わります。急性期リハでは、機能的自立度計測スコア(FIMS)によって機能回復の程度を測り、ポイントを毎週上げることが求められているのです。項目には日常動作や移動、意思疎通スキルも含まれており、通常は一日に1~2ポイント上げるのが目標となります。

8. 能力に変化があればサービスも変わります。脳卒中前よりも身体機能が低下していればメディケアでリハビリテーションを受けられます。前回のリハビリを受けて後に運動機能、言語機能、自助能力が改善しても、また、その逆に低下しても、その後のサービスを増してもらえる可能性があります。

9. 態度や行動の変化をチェック。ご本人が自分の感情をコントロールできにくくなっていないか、気をつけてチェックしましょう。そういう兆候があれば、医師に相談して対応するための計画を立てましょう。

10. ウツは回復の敵。そうなる前に止めましょう。時期のばらつきはありますが、脳卒中後にウツ状態になる人は3~5割もいると言われており、よくあることです。しかし脳卒中後のウツ状態は回復やリハビリテーションに大きく影響します。ウツかなと思ったら医師に相談して対応するための計画を立てましょう。

11. 支援を求めましょう。脳卒中サバイバーや介護者支援グループなど、地域には家族やあなた自身を支援する資源があります。地域の情報を得るためには、ケース・マネージャー、ソーシャルワーカー、退院支援担当者との繋がりを切らないようにしましょう。

12. 保険の支払いについて把握しましょう。医師やケース・マネージャー、ソーシャルワーカーに相談して、リハビリテーションがどのくらいの期間に渡って保険で支払われるか把握しましょう。リハ・サービスは症例によって大きく違うことがあります。あなたの保険ではどのくらいの期間支払われるのか、自費でどのくらい支払うことになるのか、把握しておきましょう。

13. 必要なら協力を求め、自ら行動を。「医療上の必要」の不足を理由に保険会社がリハビリテーションを拒否した場合は、主治医に介入を求めましょう。保険者に記録を送ってもらい、必要なら自分で保険会社に電話をしましょう。

14. 自分の権利を知っておきましょう。あなたの大切な人の受ける医療とリハビリテーションの記録を公開してもらう権利が、あなたにはあります。カルテの記述や脳の画像も含め、医療記録のコピーをもらう権利もあります。

15. 自分を大切にしましょう。他の家族や友人、近所の人に協力を求めて自分自身のための時間を作り、介護からの休憩を取りましょう。きちんと食事をとり、毎日運動やウォーキングで体を動かして、ちゃんと休みましょう。

仮訳:児玉真美
「世界の介護と医療の情報を読む」より(「介護保険情報」2009年6月号p.104-105掲載のものを一部改定)

(原文はその後、あちこちで見るたびにタイトル本文ともに少しずつ違っているのですが、
上記の仮訳は4月29日にMedical News Todayに掲載された
15 Tips Caregivers Should know After A Loved One Has Had A Stroke を使用)

脳卒中に限らず、広く慢性病患者や障害児・者と介護者に必要なのは
正しい知識・技術と情報を「指導」と「教育」によって与えられることだけでなく、
それらを現実に使いこなしながら日々を暮らす力をつけることであり、
そのエンパワメントをサポートしてくれる支援なのだということ。

そのためには専門家の「支援」の視点が医療の中に留まって、
その高みから患者の体だけを眺めているというのではなくて
患者の生活や人生の側に視点を移して、
患者の側に寄り添ってみることから始めて欲しいという
個人的な願いをこめて。

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ASAのサイトは、例えば「脳卒中後の生活」カテゴリーだけでも、
医療機関や最新治療・代替医療、リハビリ、後遺障害、支援テクノロジーに関する豊富な情報のほか、
「片手で野菜を切る方法」「片手で運転する方法」など日常生活のヒント集、
金銭面でのアドバイスのページ、受けられる支援に関する情報ページなど

いわば「サバイバーと介護者をエンパワーするための情報」の宝庫となっています。