ゲイツ財団の慈善ネオリベ医療グローバリズム賛歌

前のエントリーで紹介したIHMEの研究に関連して
なんとも面白いものを見つけた。

Gates’ funding surge reorders the world of global health
By Robert Fortner
Crosscut, June 18, 2009

著者のRobert Fortnerという人物は元マイクロソフトの社員で
こちらのエントリーで紹介した記事を書いた去年の夏には
Bill Gatesが科学研究にかける熱意がいかにすばらしいかについて本を執筆中で、

記事のトーンもまるで
「世界の帝王たるGates様はこんなにも世界のみんなの健康を案じてくださっているぞ」だった。

今回見つけた上記記事の著者紹介によると、
あの本は書き上げて無事に出版したらしい。

そのFortner氏がIHMEの研究結果について
前のエントリーで読んだWashington大学の記事とはまた別のトーンで書いているのが、
もう、ぞくぞくするほど面白い。

まず、前の時もそうだったけど、
FortnerはIHMEがゲイツ財団の私的研究機関だという事実をまるで隠そうとしない。
というか、IHMEの存在そのものがゲイツ財団の中に位置づけられていて
Fortner自身はGates氏に自己同視して文章を書いているので
IHMEだろうが所長のMurrayだろうがLancet だろうが、みんな上から目線。
ここが、なんとも楽しい記事なのですね。

そのFortner氏が上から目線で分析するところによると、
5月にLancetが「ゲイツ財団はグローバル・ヘルスのために何をしたのか」と問うた、
その答えが今回のIHMEの研究報告である。

何をしたかって、
ゲイツ財団が呼びかけて、自らも多くを拠出したからこそ
(ピークは2007年の12億5000万ドル)
途上国への医療援助は10年間で4倍にもなったのである。

しかし、その弊害として
The Global Vaccine Access Initiative(GAVI)と
The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malariaという
2大・超金持ち組織が出現してしまった。

それまで世界の医療を牛耳ってきたWHO、UNICEF世界銀行
一応そこに理事としてゲイツ財団と一緒に名前は連ねているけれども、投票権はないし
この2つは基本的にWHOなどの国際機関からの影響力を排除した組織である。

今やWHOもUNICEFも「資金をくだせぇ」と頭を下げては
援助の対象たる途上国を相手に、資金を奪い合わなければならない事態となっている。
昔、有力政府とつるんでブイブイ言わしたガバナンス能力など、もう残っちゃいない。

そこで今こそ脚光を浴びるのがIHMEなのだ。

当初は科学者らから「ゲイツは自前のWHOを作るつもりか」と批判されたし
Murrayの医療経済学理論(これがDALY)も以前はあちこちで冷や飯を食わされてきたが
国際機関がガバナンスを失った現在、
ゲイツ財団が資金を出してIHMEを設立しMurrayを所長に招いて
科学的に医療援助のコストパフォーマンスを点検し
アカウンタビリティを追求しようとしていることは

まさに、先見の明による偉業でなくしてなんだろう(とは、さすがに書いていないけど)。

そればかりか、この不況の折だというのに、
ゲイツ様は自らの痛みも省みず、さらなる増額にまで踏み切られたのだぞ。

なんと、すばらしい我らが将軍さま……。
(いや、実際にそう書いてるわけじゃないですけどね、本当に、こんなトーンなんですってば)


でね、私、思うに、

トランスヒューマニズムが実は米国政府の夢であったり、
予防医学という名前の科学とテクノ万歳文化の洗脳が起こっていたり、
欧米を中心に無益な治療概念がじわじわ広がっていたり、
自殺幇助の合法化も着実に実現されていっていたり、
科学とテクノと無益な治療法と尊厳死とあらゆるものが
障害児・者を産まないこと、切り捨てることに繋がっていたり、

もっといえば、
日本で臓器移植法改正 A案があっさり可決されてしまったり、ということも、

実はみ~んな、
この慈善ネオリベ・医療グローバリズムとでもいうべき
広くて大きな傘の中で起こっているんじゃないのかなぁ……と。

グローバル経済で起こったことをグローバル・ヘルスが後追いする形で――。