Navarro事件の移植医に無罪:いよいよ「死亡提供ルール」撤廃へ?

2006年2月に米国カリフォルニア州で起きた事件。

心身に障害のある25歳の男性 Ruben Navarro氏が
暮らしていたナーシングホームから病院に送られ呼吸器をつける事態となったのですが
脳死と判定されたわけでもないのに医師が母親から臓器提供への同意をとり
呼吸器を外したばかりか
それでも死なないと見るや
臓器を保存するための薬物を大量に投与して
Navarro氏の死を早めたというもの。

詳細は臓器欲しくて障害者の死、早める?のエントリーに。


しかし、以下のNY Timesの記事で見る限り、
この医師が無罪になった理由というのがよく分からない。というか
むしろ、この判決は「臓器提供に死亡提供ルール廃止せよ」というTruogらの主張
肯定するという意味合いのものではないか……と。

あまり内容が多くない記事なので
これだけで判断することは危険かもしれないのですが、

地方検察官は取材にコメントを返していないのでともかくとして
有害物質を不当に処方し与えたとして罪に問われていた
Dr. Hootan C. Roozrokhの弁護士の主張は以下。

・R医師は臓器を採取するために飛行機で駆けつけたが
他の医師らが義務を果たしていなかったために苦しんでいたRubenの
苦しみを和らげる努力をしたのだ。

・Dr. Roozrokhにはなすすべもない状況だったし
彼自身はその気になれば立ち去ることだってできた。
自分が立ち去ってしまえば誰もRubenの治療に当たるものがいないから
R医師は留まったのだ。

・ イランからの移民で米国に帰化したR医師は
心臓死後の臓器提供という、あまり使用されていない方法を試みており、
そのやり方では臓器を摘出する前に生命維持装置を取り外すことになる。

気になるのは特に最後の点です。

多くの場合、臓器提供は脳死者から行われているものの
深刻な臓器不足から、ここで触れられているような心臓死からの摘出が増えていると
この記事にも書かれています。

しかし、ここでいう「心臓死からの摘出」というのは、
日本で「心臓死からの摘出を待つのではなく脳死状態からの摘出」と考える意味での「心臓死」ではなく、
脳死に至っていない患者の呼吸器を外して
移植のために心臓死を引き起こして殺そう、という話。

この評決を出した陪審員
こうした心臓死での臓器提供について明確な方針が必要との声明を出したとのこと。

しかし米国移植学会の前会長のコメントは
「問題となっている事件には微妙なところが多々あることを認めなければならない。
そして、R医師は気の毒だったと同情しなければ」

R医師の弁護士は
「個人としても医師としてもR医師が失った3年間は取り返しがつかない」

Doctor Cleared of Harming Man to Obtain Organs
The NY Times, December 18, 2008


脳死でもないのに、つまり死んでもいないのに
臓器欲しさに呼吸器を外された人の命や苦しみだって、取り返しはつかない――。