英国の臓器提供“みなし同意”論争

Brown首相は臓器提供について
現在の提供に同意する人が予め登録しておく“登録制”から
特に「提供しない」との意思を表明していない限り同意とみなす“みなし同意”制へと
法律を改正して移植用臓器を増やしたい考えなのだけれど、

専門家委員会は
実効性が薄いばかりか医師への不信を招き逆効果だとして
“みなし同意”への移行を却下。

ここまでは、先行ニュースもあったのですが、
以下の17日付BBCの記事は、
それでもBrown首相はまだ“みなし同意”制度に未練を残しているというニュースで、

首相は、
とりあえずは450万ポンドを費やして啓蒙キャンペーンを張ってみるが、
保健相が設定した目標値である
2010年までに登録者2000万人
2013年までに登録者2500万人
を到達できない場合には、
“みなし同意”への移行を再検討するぞ、と。

医療界は意見が2つに分かれており、
英国医師会は“みなし同意”支持。
「国民の大半が臓器提供の意思がありながら登録者が25%に留まっているだけ
というのは周知の事実だから」

英国医師会の倫理委員会会長も今回の専門家委員会の結論に失望した、と。

その一方、救急医療界からは
医師と患者の間の信頼関係が損なわれるから
ラディカルな法改正はやらないで欲しい、との声も。

興味深いのは英国腎臓財団が
問題はむしろNHSのキャパが不足して臓器が無駄にされていることの方であって
それは“みなし同意”で解決できる問題ではない、と言っていたり、

英国臓器移植学会の前会長が
“みなし同意”は単細胞的な発想で「時間の無駄」とばっさり切っていること。



専門家委員会が重視している点として
ドナーの家族からの聴き取りでも、レシピアントの家族からの聴き取りでも、
贈り物という概念が大切なのだということがわかった、
“みなし同意”制度はその概念を阻害する、という見解があるのですが、

Brown首相にすれば、
「家族の感情などという瑣末なことに関っていられるか、
それよりも国際競争に負けたらどうするんだ?」
というところなのかもしれません。

しかし“みなし同意”とは
「死んだら臓器は何でも好きなように使ってもらう」のがスタンダードになるということであり

実際に



「脳死を待たず植物状態から摘出もアリにしよう」という声(これは、多分あちこちで)、

社会に迷惑をかけるようになったら死ぬ義務」などと
「それよりも社会の利益になるよう臓器提供のために死んでね」と重なりかねない声(これは英国)が
起きていることをよくよく考えて欲しい。

あ、こちらも米国の話ではありますが、
実は臓器不足は政治的に誇張されているだけという調査もあったりして。