You are only human:介護者だって生身の人間なのだから

高齢者や障害児・者の介護を担っている人にとって大切なことは何なのか。
介護者のニーズとは何なのか──。

「深い家族愛で献身する美しい姿」という非現実的な美意識に阻まれて
介護者(障害児の親も含む)自身の現実的なニーズに目を向けるということが
日本ではまだ充分になされていないのではないでしょうか。

以前のエントリーで紹介した豪の介護者支援団体Carers Australiaの介護者向けページのトップから
Carers Australiaへの意見投稿を除く8つのカテゴリーと
それぞれの簡単な解説を以下に訳してみました。


知識を身につける
あなたが介護している人のニーズを理解することが大切です。

現実的な問題
介護はあなたの日々の生活にいろいろな形で影響します。
家の改造をしたり、新しいスキルを身につけたり、
働き方をそれまでと変えたり、お金のやりくりなど、
ちょっと考えただけでも、必要なことは沢山あります。
日々の生活で介護責任を果たしていくためには
現実的な戦略が必要です。

サービスを見つける
介護しているあなたやあなたの介護を受けている人を支援するサービスが
いろいろ利用できます。
その中には、あなたのニーズに最も適した支援を決めるための相談窓口もあります。

あなた自身を大切にする
あなた自身の健康を大切にしなければ
他の誰かのケアもできません。
忘れないでおきましょう。
あなただって生身の人間なのだということを。
あなた自身のニーズを大切にするヒントを。

休みを取る
定期的に休みを取って元気を取り戻し
介護以外の自分の生活にも心を向けられるのでなければ
介護という大変な仕事をずっと担っていくことはできません。
レスパイトやその他、家族や友人の手を借りる方法を。

思いを言葉にする
あなたの状況を分かってくれる人と話してみると
ラクになることもあります。
あなたと同じような介護をしている人のグループや
専門のカウンセラーなどもいいでしょう。
あなたの話を聞いてサポートしてくれる人の情報。

声を上げる
介護者には沢山の大切な、そして差し迫ったニーズがあります。
そうしたニーズを上手く他の人たちに、
そして支援することのできる機関に
伝えていくことが不可欠です。
あなた自身の権利を訴えていく際のヒントと
アドボケイトとしての我々の活動について。

将来設計
日々の介護に追われていると
ずっと先のことを考えたり緊急時の計画を立てる余裕がなくなります。
前もって計画を立てておくための戦略をこちらで。


「あなた自身を大切にする」というカテゴリーの中で
「忘れないでおきましょう、あなただって生身の人間なのだということを」と訳した部分は

 Remember, you’re only human.

文字通り直訳すると
「覚えておきましょう。あなたは人間に過ぎないのだから」。



例えば福岡の小1殺害事件に対してネットで見かけたコメントの中には
「親ならたとえ血反吐を吐いてでも」といった、ものすごいのもありました。

しかし、「どんなに大変な介護や育児にも
決して笑顔を絶やさず優しく明るくたくましく献身し続ける美しい母の姿」というのは
ただ世間の人が見たいものを見せろと要求している非現実的な理想像であって、
生身の身体を張って厳しい現実と格闘している当事者には
何の助けにもならない傍観者の美意識に過ぎません。

また地方によっては今なお
訪問看護の車が家の前に止まったら近所から批判が出るから
バレないように訪問してほしという要望が出る……などといった話も耳にします。

そんな非現実的な美意識や道徳規範がいまだに持ち出されて
介護は家族が抱え込むものとする有言無言のプレッシャーがかかる、
また、それに乗っかって
家族責任を前提にした制度作りがお上にとっても好都合らしい日本では
最も見過ごされているのが、この「介護者の頑張りにも限界がある」という事実ではないかと
私は日ごろ感じているので、

その思いを込めて、
「介護者だって生身の人間なのだから」と訳してみました。