今度は「胚の養子縁組」だって

ヒト胚をES細胞研究に使えない米国では
生殖補助医療で出る余剰胚が多数、冷凍保存されていて、
その胚を不妊に悩む夫婦が提供してもらって子どもを持つことに
連邦政府が力を入れ、斡旋する団体などに資金援助を行っている。

それを呼んで「胚提供」または「胚の養子縁組」。

冷凍されている余剰胚の約1%が
そうした形で不妊の女性に提供されて、すでに314人が生まれていると推計される。

人工授精よりもはるかに安価で、成功率も高い。
ドナーを(つまり胚の生物学上の両親についての情報)を選ぶこともできる。

胚性幹細胞研究に反対する立場にとっては
望ましい胚の利用の道であるという声もあれば、

いや、胚の養子縁組と幹細胞研究への利用とは
両立しないわけではない、どちらにも使えばいいではないかという声もある。

Embryo adoption grows as option
The Detroit News, October 21, 2008


しかし、凍結保存されている胚の方から見れば、
自分を選んでくれる親希望の誰かが現れるかどうかが、
人として生まれ育っていくことができるか
それとも研究利用されて破壊されて破棄されるかの
運命の分かれ目だというのだから、

それはつまるところ
人として扱われるか物として扱われるかの境目が
胚の養子縁組で選んでもらえるかどうかの1点にあるということであって、

改めて胚を研究利用することのきわどさを痛感させられるようにも……。


それにしても「余剰胚」という言葉も「臓器不足」と同じく
妙な言葉ですね。

「余剰」と呼べば、あたかも、
必要以上にあるなら本来の目的以外に有効利用するべき「資金」とか「物資」と同じように思えてくるし、

「臓器不足」と言えば、まるで
本来なら欲しい人には十分に行き渡るべきものなのに、
足りていない現状が異常だから急いで正さなければならないかのように聞こえる。