新・着床前遺伝子診断MoT:遺伝病はもちろんアルツも糖尿も癌も心臓病も弾けるぞ

ロンドンのBridge Center で開発された
着床前遺伝子診断の新らしい技術 “遺伝MoT”とは
IVFで作った胚が2日めになったところで、
それぞれの胚から細胞を1つずつ取り出して
karyomappingと呼ばれるテクニックで遺伝子を解析、
その後に健康な胚を着床させる、というもの。

現在の着床前診断と違い、ほんの数週間で完了する。

現在の着床前遺伝子診断で分かる遺伝病は限られているが、
遺伝MoTでは、ほとんどの遺伝病のスクリーニングが可能になり
嚢胞性線維症、筋ジス、ハンチントン病などの重病を避けられるだけでなく、
糖尿、アルツハイマー、心臓病や癌などの
一般的な病気にかかる確率が高い胚も見分けることが可能。

また不妊の女性には
最も正常発達の可能性が高い胚を選ぶことによって
妊娠の確率を上げることができる。

当然ながら「デザイナー・ベビー」に繋がるという懸念や
同意を与えることができない胎児の健康に関する個人情報の扱いを巡る
倫理問題が指摘されています。

このテクニックの開発を率いたAlan Handyside教授は
「現在このテクニックを固めているところで、上手くいけば革命的な技術となる」と語り、
ヒト受精・胚機構にライセンスを申請する予定で、
実現の暁には1500ポンドで受けられる。

もっとも、同じBridge Centerの他の科学者の話では
3つの条件を満たす胚を選ぶためには何千もの胚を作ることが必要となり
現実にはそんなことは不可能なので
所詮デザイナー・ベビーは無理なのだとのこと。

Genetic MoT will detect disease in unborn child
By Mark Henderson, Science Editor
The Times, October 24, 2008


Timesには、この記事と同時に、
Bristle大学の医療倫理の専門家による
“遺伝MoT”技術に疑問を投げかける記事が掲載されており、

“滑り坂”にならないためには
子どもの遺伝子を選ぶ技術ができたからといって使えばいいというのではなく
現実に機能する制約を設け、きちんと監督することも必要だし、
親の側にも常識を持った対応が肝要だろう、と。

There is no guarantee of the perfect child
By Ainsley Newson, Commentary
The times, October 24, 2008

Newsonはまず最初に
技術的にそんなことは出来ないのだから、
この技術がデザイナー・ベビーへの入り口だという誤解をするまい、と呼びかけます。

その次に、どの病気について、この技術を使うのかを慎重に考えなければならないが、
一度に複数の病気のスクリーニングを行うことが妥当なのか。
また命に関るほどではない慢性病のスクリーニングが妥当なのか。

選択が可能であるかぎり、
親には可能な限り最良の子どもを持つチャンスが与えられるべきだろうか。
しかし、予め設定した条件で子どもを選ぶということそのものが
親になるということにおける最も大切なものに反しているように思われる。

子の遺伝子情報がカルテに記載されてしまうと
親にはアクセスする権利があることになるが、果たして、それでいいのか?

今のところ、子どもの遺伝子診断は
子ども自身が判断できる年齢になるまで行わないで置くのが通例だというのに
その子が存在する以前から遺伝子情報全体が明かされてしまうことになれば
プライバシーとデータ保護の問題が出てくる。

この技術を適用する病気の種類と親に提供される情報のレベルについては
ヒト受精・胚機構やヒトゲノム委員会などの政府機関による慎重な監督が必要である。

「パーフェクトな子ども」の保障などありえないのだ。
だからこそ、たいていの親はごく普通に子どもを産んでいるのである。


私が共感したのは
Newson氏が冒頭に書いている問いの1つで
「いったい、どれだけの情報を手に入れたら満足するのだ?」

それから医療倫理の専門家にして
「親は常識を」という呼びかけにも。

「条件付けで子どもを選ぶことそのものが
 親になるということの何か大切なものに反している」という指摘にも。