iPS細胞とは「細胞の初期化」なのかぁ

京都大学山中伸弥教授が世界に先駆けて作成に成功したiPS細胞について、
どうしても「作る」という言葉から捉えてしまっていたのですが、

先日、「iPS細胞が出来た!」という本で
山中伸也教授と同じく京大の畑中正一名誉教授の対談を読んでいたら、
畑中教授が「細胞の初期化に成功した」という捉え方でiPS細胞を語る下りがあって、
その表現がすぱっと腑に落ちた。

それまで「万能細胞を作る」という漠然としたイメージだったのだけれど、
「皮膚の細胞に遺伝子を4つ入れてみたら、細胞が初期化された」と考えると
文系頭にもクリアに分かりやすい。

もしかしたら、この理解では間違っているのかもしれないけど、
素人なんだから、いいや。当分はこの理解で行こう。

ところで、
ずっと調べてみようと思いながらサボっていたけど、
iPS細胞とは induced pluripotent stem cell (人口多能性幹細胞)なんだそうな。

その他、面白かったところ。

切っても生えてくるトカゲの尻尾には実は骨がないけど、
イモリの尻尾は切ったら骨から再生して生えてくる。
現在「再生医療」というと
「移植でとってつける」とか「作ってつける」ものということになっているけど、
本来はそうじゃなくて、イモリのように骨から再生するのが再生のはずだとして
山中氏がイモリやプラナリアの研究が大事だと言っていること。

それから、
この本の場合、副題が「ひろがる人類の夢」であり、
出版社の企画の意図そのものがそこにあるわけだから
編集部の意を受けた畑中教授は奮闘しきりで、
iPS細胞の成功がすぐにも具体的な病気の治療に結びつくかのように
次々に夢を描いてみせては挑発するのだけれど、
山中教授は慎重で、乗っていかない。

臨床で役に立つ可能性のある研究ができたことを喜びつつ
臨床応用が可能になるまでには
まだまだやらなければならないことが沢山あると繰り返し語って、
性急に患者の期待や希望をかきたてることには加担しない。

例えば、
現在はシャーレの中で行う細胞を培養して組織を作る二次元培養だけれど
すでに三次元培養が始まっているから今に臓器の再生も可能になるだろうと、
畑中氏ににけしかけられた山中氏は

「あの、やっぱりだいぶ難しい話だと思うんですけど」
「いま僕らが持っている知識だと、ちょっとなかなか三次元的なものは……」

その、はったりのない誠実さが好もしかった。

そういえば立花隆氏なんか、もう何年も前に
臓器再生が間もなく可能になる!みたいなトーンで語っていなかったっけ?

無責任な先走りで今にも可能になるかのように万能の夢を描いてみせる人がいるから
その夢に浮き足立った世の中の価値観がおかしくなっていく。

はるか先の見果てぬ夢に心を奪われて、
足元の現実を生きていくことの大切さが忘れられていく。

そして、そんなふうに浮き足立った人々に
グローバリズムネオリベラリズムが付けこんで
強い者がさらに力を得るのに都合のよい世の中が急速に作り上げられていく。

弱い者へのリスクなどお構いなしに、なりふり構わぬ競争を繰り広げては
いっそジャマだと一番弱い者から切り捨てることまで目論みながら。