NBICレポート:モチベーションと展望 2

この回、前のエントリーの続きです。

NBICレポート第一章にあった8本の講演内容から
いくつか特に目に付いた点を挙げると、


米国科学財団のGingrich氏の講演で

テクノロジー革命のスピードは、当初の基盤づくりの平坦な時期があった後に
急速に発展して伸び、革命が成熟すると再び平坦になるというS字カーブを描く。

現在はコンピューター・コミュニケーション革命がまさに急速な発展期に入るところ。
今後は少し遅れてバイオとナノテクの発展期が始まって
前者のピーク時に後者の成熟期の始まりが重なるのだと
2つのS字カーブがちょっとズレて重なる図が描かれています。

2つの成熟期が重なるところが、
Kurtzweilの言うsingularity (特異点)なのですね、きっと。

Gingrich氏は
この大きなパラダイム・シフトに向かう今後数十年間を「移行の時代」と呼びますが
その変化に適応できる人にとっては大きなチャンスである反面
人々の生活はより複雑となり、その結果ついていけない人が出るので、
そういう人にうまく適応させるには政治のリーダーシップが必要であり、

それに失敗すると人々は政治に興味を失い、
日々の生活で生き残ること以外に関心を持たなくなるだろう、と述べています。

8本全ての論文が、ほぼ明るい未来の夢を描くことに終始している中、
わずかに悲観的な予測をしている部分ですが、
私には、この部分のリアリティが他のどの部分より重い気がする。

またGingrich氏が上記の部分に続いて細かく描いてみせる
変容後の社会の特徴を読んでいくと、

それはコストパフォーマンスが大きく向上し、
さらなる競争原理によって突き動かされていく過酷な社会としか思えず、
振り返って直前の予測は「人々が日々を生き延びることで精一杯になる」とも読める。

2001年のその予測は、2008年の現在、すでに現実となっているじゃないか、とも思う。
バラ色の未来予測はいずれもまだ実現していないにもかかわらず。



NASAからの3人の講演では、

NASAというのは宇宙開発をやっているところだと思っていたら
もっと幅広く、気象、地球、生物学、物理学の研究を行っていると学びました。
なにしろ文系頭なので、認識不足でした。

これからは、そのいずれにおいてもナノテクが鍵なのだ、という話。



国立衛生研究所のJohn Watson氏の講演では、さすがに
人類の能力強化だけではなく健康の増強も忘れてはならない、と。

ただし、そのためには現在の医学上の問題解決だけを念頭においた研究ではなく
いかに荒唐無稽に見えても将来の可能性を展望した果敢な研究が不可欠で、

(ここでアンギオグラフィと心臓ペースメーカーの開発の過程と成果の詳細なデータを挙げます)

政治が明確な長期目標を設定することによってのみ
国民の支持が得られて研究が可能になる、と。



Institute for Global Future創設者のJames Canton氏は

NBIC統合を実現するために
統合テクノロジーの政策知識ネットワークを提言しているのですが、

国際競争力を維持・向上するためとはいえ、
国内での競争も激化する中で、そう理想どおりに
研究成果やデータ・情報の共有が出来るものなのかな?

またCanton氏は、
こうしたテクノ改革は将来の経済を形作るので、
新たな経済インフラに適応・対処して世界の覇者であり続けるために
行政と研究者、ビジネス界のトップとが長期戦略で一致しなければならないと説く中で、
彼らが直面する困難な問いの例を挙げています。

ベビーブーマーの寿命を延ばすのか? 

統合知を持った労働者という新世代を育てるのか?

統合テクノロジー発展に向け民間ベンチャーの資金はどこから?

パフォーマンス強化が「医療製品」となった医療とは?

我々社会の誰の能力を強化するのかという倫理・社会問題は?


――私も答えを聞いてみたい。