自閉症キレート療法論争にDiekema医師

こんなところにDiekema医師が登場していると、教えて下さる方があったので。

自閉症児へのキレート療法の臨床試験を巡って米国で先週から論争が起きており、
その件についてScience誌に掲載の論文。

Stalled Trial for Autism Highlights Dilemma of Alternative Treatments
Erik Stokstad
Science 18 July 2008
Vol. 321. no. 5887, p.326


ワクチンの防腐剤に含まれていた水銀が自閉症を引き起こしたという説は
既に何度も否定されているにもかかわらず、
今なお信じている親も多く、
水銀中毒に使われるキレート剤で体内の重金属を排出することによって
自閉症の症状も緩和できるとの通説が流布されている。
米国の自閉症児の2から8%がキレート療法の体験者だとも。

これほど広まってしまっている以上
きちんと試験をして効果とリスクを検証する必要があると考えたのは
The National Institute of Mental Health(NIMH)。

子どもへの医薬品の臨床試験では
直接的な利益が見込まれない薬によって副作用のリスクに晒すことは倫理に反するとの原則があるが、
その反面、きちんと検証されることのメリットも捨てがたい。

NIMHは施設内審査委員会(IRB)の承認を経て2006年9月に実験を開始したが
その後、動物実験で副作用が報告されたため、
2007年2月に実験を中止し、判断がIRBに差し戻された。

IRBは今回の判断を避けたものの
社会全体の利益が大きいと判断されれば
NIMHを管轄する福祉保険省には実験を承認する権限があるため
先週メディアが「政府筋が反倫理的な実験をもくろんでいる」と報道し論議が巻き起こった
……というのが顛末のようです。

しかしNIMHではキレート剤よりも
抗生剤minocyclineがRegressive な自閉症にもたらす影響のほうに
研究の焦点を移したいとのこと。

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なぜ、こんなところに登場しているのか不思議なのですが、
この記事の中にIRBのメンバーでもなかったDiekema医師がふいに出てきて
コメントしています。

2006年の実験を承認したIRBの決定を擁護するという役回りなのか、

効果が見込めないのにリスクに晒すのは倫理に反するとの基準に対して、
「その反面、適正に行われた実験でネガティブな結果が出れば
キレート剤を使うかどうか親の判断がベターなものになる」と。

実験対象となる子ども個々のリスクよりも
社会全体のメリットを……との見解とも聞こえますが、

つい先日のワクチン拒否事件に関連して彼が発表した
「個人の自由」と「公益」とのバランスを論じる論文では、
「合法性」と「害原則」の2点を公権力介入が正当であることの検証基準として挙げていたし
害原則には慎重に追加条件まで加えていたことと照らし合わせると、

「利益が見込まれないのに子どもをリスクにさらすのは不可」とする原則こそ
彼の言う「害原則」ではないのか……??

なんだかDiekema医師という人は
生命倫理・医療倫理が実は政治的な思惑しだいでどういう方向にでも振りかざされる詭弁に過ぎないことの
生きた証みたいに思えてくる……。

【追記】
その後、この研究は中止されたようです。
afpcさんのブログで取り上げてくださっているので(9月18日)、TBさせていただきました。