世界の病気・障害「負担」数値化へ

死亡率に障害も加えて医療データ見直す新基準DAILY」のエントリーで紹介した
ワシントン大学の研究所IHMEで進んでいるプロジェクト
Global Burden of Disease(GBD 病気の世界的負担)について。

たとえばGBDの目的はと言えば、

As a whole, the study stands to significantly revise our comprehension of global health, while providing information in a way that is maximally useful for funders and policy-makers.

この研究全体としての狙いは世界の保健医療についてのわれわれの認識を大きく改変し、
資金提供者と施策立案者が最大限に利用できるような情報提供を行うことである。

そのために彼らは
エビデンスに基づいた科学的な方法でこれまでの保健医療データに体系的かつ包括的な見直しを行い、
病気、怪我そしてリスク・ファクターの世界的負担を新たに推計する、と。

burden assessment, burden estimates , burden staticticsなど
キーワードのように繰り返されているのは「負担」の数値化のことでしょう。

保健医療施策と資源における「負担」である病気・障害と、
さらにそのリスク・ファクターを数値化し、それを施策と資金の配分に生かすという話。

研究の中心となるのは
Washington, Harvard, Queensland, Johns Hopkinsの各大学とWHOの研究者。

GBDプロジェクトが出す数値の正確さと、意思決定ツールとしての有効性の根拠として
以下の4点があげられています。

権利擁護と疫学を切り離し、すべての病気と障害に体系的で客観的な分析、つまりエビデンスに基づいた評価をおこなう。

・ 年齢尚早の死、病気、障害の原因情報を統合して、うつ病やマヒなど、これまでの統計に見えにくい病気のデータも拾う。これまで予測もできなかった形へと世界の様々な保健医療の認識を変える

コスト効率を分析する。世界中のどこの人の命も平等に重んじて保健医療介入の利益とコストの意思決定が行われるよう、同一の通貨単位を創設する。

・ インターネットを介した教育、研修、透明性に重点を置き、それによって研究者、専門家、施策立案者などグローバルなコミュニティの参加を促す。

つまり、これは、
死に至る重病だけではなく、世界中のありとあらゆる病気と障害について
保健医療プログラムのコスト・パフォーマンスという視点からのみ数値化します、

その際に、世界の地域ごとの社会的、環境的その他諸々のファクターは一切カウントしません、
権利擁護の視点も一切カウント外になります

……という話ですね。

どんな政情とどんな環境のどんな国のどんな地域であれ、
世界中の人の病気と障害を同一の物差しで計るなどという乱暴な話が
どうして「すべての命を平等に重んじる」ことになるんだ?????

それに、

彼らのいう「保健医療」にも、それを巡る研究にも意思決定にも、
患者・障害者当人の視点は全く一切入っていない。

きっと、これはもう医療ですらなくて、ただの功利主義なんですね。

限りある資源は、最大多数の最大幸福のために――。