死亡率に障害も加えて医療データ見直す新基準DALY

シアトルのワシントン大学に新しくできた研究所IHME(医療数値基準評価研究所とでも?)と、
IHMEが新しい事務所の公開をかねて4月9日から2日間開催した科学研究カンファレンスについて、

Ashley事件で御馴染みの地元2紙がそれぞれ報道していますが、
この2つの記事を読み比べてみると、とても面白い。

いずれもの記事も焦点を当てているのは
HIME所長にハーバードから引き抜かれてきたChristopher Murrayなのですが、
2つの記事の切り口はかなり違っています。

ここでは、まずSeattle Post-Intelligencer の記事から。

UW hosts key players in global health effort
The Seattle Post-Intelligencer, April 9, 2008


SP-I紙が焦点を当てるのは
Murray氏の「爆弾言動」をめぐる“過激さ”と
彼の爆弾発言の洗礼をかつてのWHOの職員時代に浴びて以来
一緒に世界の医療データの見直しを行ってきた
豪のクイーンズランド大教授Alan Lopezとの関係。

それによってSP-Iの記事はIHMEの目的を具体的に浮き彫りにしていきます。

Murray氏の爆弾発言が過激だと見なされる理由としては、
1つには数値で証明することと、
もう1つは、それによって従来の資金配分順位や既に確立された活動目的を揺らがせること。

データ見直しに用いる方法論を彼らは
病気が世界に負わせる負担を評価する全く新しい方法」と説明するのですが、
その名称は「障害を考慮して調整した生存年数」DALY。

the disability adjusted life year (DALY)

つまり、これまで使われてきた生死の基準だけではなく
障害という基準から生存年数データを見直す……というやり方。

DALY は Murray とLopezがすでに立ち上げたプロジェクトで作られた基準なのですが、
このプログラムの名称もすごい。

Global Burden of Disease (病気のグローバルな負担)

プログラムがDALY基準を確立した今後の目的として考えているのは
病気傾向や保健医療における優先順位の決定、
病気撲滅プログラムの効果の検証や保健医療ケアの配分と質などに
よりよい評価の方法論を見つけること

例えばマラリアにかかったからといって必ずしも死ぬわけではなく、
毎年何百万もの人が障害を負ったり虚弱になって
引いてはそれが共同体の貧困や弱体化を招いているのだけれども、
その影響は単に死亡率だけを見ていたのでは計測できない、と。

プロジェクトの名前の通り、
障害は投入される保健医療費のお荷物(burden)という捉え方なのですね。

もちろんデータが見直されるということは、
資金の配分先も見直されるということです。

こうした基準の使用には
人の生の質を相対化するもので非倫理的だとの批判が出ていますが、
Murrayの反論は、これまたIHMEの持つ価値観を非常に象徴しており、

しかし、もうそれぞれが適当な数値を上げていればいいという時代ではありません。
世界の医療に関する医師らや各国政府の関心(利益)は爆発的に大きくなり、
今まで以上に各種プログラムの正確なモニターとアセスメントが必要となっています。

企業が一定のスタンダードに基づいた損益報告を出さなかったら市場はどうなります?
基本的には世界の医療も今やそういうふうに運営されているのです。