法案成立より先にハイブリッド胚を作成

英国Newcastle 大学のチームが
牛の細胞に人間のDNAを入れたハイブリッド胚の作成に成功したと、
4月1日に発表したとのこと。

当ブログでもこれまで「ネオ優生思想」の書庫で
着床前診断による障害・病気の排除の関連で取り上げていますが、

英国上院では目下ヒト受精・胚法の改正審議が行われており、
ハイブリッド胚の研究目的での作成を認める条項については
両党とも自由投票ということになった模様。

まだ法案の審議はそういう段階で投票は来月らしいのに
早々とハイブリッド胚が作られても特段、違法ということにはならない。
なぜなら、ヒト受精・胚機構(HFEA)がこのチームにライセンスを与えたから。
来月に法案が議会を通ったら、いよいよそのライセンスの法的位置づけが公式になる
……ということなのだそうで。

ハイブリッド胚を作成するメリットは、
人間の卵子を使わずにES細胞を作ることができて
女性から卵子を採取したりヒト胚を破壊する倫理問題も
なかなか数が望めない卵子不足も解消する、
パーキンソン病アルツハイマー病の解明や治療法に役立てること出来る、
個々人に合ったオーダーメイドの治療に結びつく……などなど。


ちょっと気になるのは、ここへ来て
「ハイブリッド胚」とか「キメラ胚」とかではなく、
admixed embryos (混成胚、でしょうか?)という
新しい呼び方が目に付くようになってきたこと。

こういう言い替えが起こるということは、
まぁ、法案が通過する見通しが立ったんだろうな……と勘ぐってしまった。

それにしても、
いくらオーソリティのある機構が作ってもいいとライセンスを与えたからといって、
(ちなみにHFEAはKing’s Collegeのチームにもライセンスを与えています。)
ハイブリッド胚の研究利用を認める法律が成立していないのに
研究者が既成事実をちゃっかり作ってしまって、
法律が後追いしたら「そのライセンスの法的位置づけが公式なものになる」って……
どうも、この辺りの感覚が前からよく分からない……。

【追記】
……ということを考えていたからか、たまたま
英国で進化発生工学という難しそうな研究をしておられる方の
ブログ・エントリーに行き当たったので、
以下にTBさせてもらいました。

この人が「競争」について書いておられる部分がとても興味深いです。

科学と医学の研究の最先端の現場にいる人の率直かつナマナマしい話を読むと、
ああ、そういうところにいる人の目にはこういうふうにモノが見えるんだなぁ……と納得すると同時に、

「ハイブリッド胚もう作っちゃいましたぁ」などと公表される研究からは想像もできないような
既成事実が世間の知らないところで実はどんどん進行しているのかもしれない……とも。