楳図かずおの脳死?漫画

脳死者からの臓器摘出を考える時に
私が必ず思い出してしまう怖い漫画があって、

もうタイトルも何も覚えていないのですが、
小学生の頃(今から40年以上前)に読んだ楳図かずおの短編作品。

病気だったのか事故だったのか、
なにしろ頭も体の感覚も普通なのに、
誰からも死体のように見える状態に陥ってしまった男が
病院で身体を切り刻まれて(たぶん死因を特定するための解剖だった?)
悲鳴を上げ続けるのに誰にも伝わらない苦痛と恐怖と絶望のうちに
ついに棺に納められてしまうのです。

通夜と葬式の間も彼は必死で周囲に自分が生きていることを知らせようとするのですが、
誰にも伝わらないまま棺おけの蓋が閉じられます。

暗闇の中で外の気配から彼は焦燥を募らせていくのですが、
棺は段取り通りに焼き場に運ばれ、
ついに釜に入れられて火がつけられます。
そして苦悶と絶望の絶叫を放ちながら
男は生きたまま焼かれていく……。

なんという救いのない壮絶な漫画が
小学生が読むような雑誌に掲載されていたことか──。

あの時代にはリアリティのないホラーだったかもしれないけれども、
やはり楳図かずおは時代を先取りした天才なのでしょう。

生きているのに死んだことになってしまって、
自分が生きていることを誰にも分かってもらえない孤独。

生きたまま切り刻まれる苦痛はもちろん、
自分が生きたまま焼かれてしまうことを知りつつ
その刻限に刻々と近づいていくのを止められない恐怖と絶望。

それは当時の私にとって想像を絶する恐怖と絶望だったのですが、
今の私にとっても、思い出すだに怖くてならない話です。

あの漫画に描かれていた男の体験は
人間というものが体験し得る
最も恐ろしい孤独と恐怖と絶望の1つだと思う。

臓器を採るために脳死体にメスを入れると血圧が跳ね上がったなどと聞くと、
私は必ずあの漫画を思い出すのです。

私はそんな死に方はしたくないし、
愛する者にそんな死に方など、万が一にもさせたくない。

もしかしたら現実に
そんな死に方をしている人がいるのかもしれないと
その「可能性」について思いを巡らせてみるだけでも
なんだか苦しくてなってしまう。