体外受精の安全性 2

前回のエントリー体外受精の安全性について触れたのを機に
思い出した記事があったので探してみたのですが、

現在行われている体外・試験管受精(IVF)技術には命すら落とす危険があり、
もっと穏やかで安全・低価格の方法が提唱されているにも拘らず、
生殖補助医療が大きなオイシイ市場であることから
医師らの成果優先マッチョな競争原理によって、
それらが浸透しにくい現状が報告されていました。

Taking on the baby gods
Guardian July 4, 2007

記事に報告されているのは
排卵誘発剤を開始して2日目に心臓マヒで死んだ33歳の女性と
卵子を卵巣から採取する処置の最中に問題が起こって死亡した37歳の女性
の2例ですが、後者の夫の言葉が印象的で、

ニナ(妻)が死ぬ確率が1%でもあると病院が教えてくれてさえいれば、
こんなことはしなかった。

子どもが欲しかっただけなのに。どうしてこんなことに?

説明がなかったのかどうかも気になりますが、
彼の言葉は多くの人の感覚を代弁しているのではないでしょうか?
安全な医療だと思うからやるのであって、
命を懸けてまでやりたい人は多くはないでしょう。

ところが現在行われている大量のホルモンによる排卵誘発のやり方では、
1割の女性にovarian hyperstimulation syndrome(卵巣高刺激症候群?)という副作用が起こり、
悪くすれば血栓症につながるとのこと。

また、大量のホルモン投与によって多くの卵子を採取して複数の胚を着床させることで
多胎児が生まれる確率が高くなり、
子どもにも低体重や身体的・知的な問題が生じるリスクが。

実際にはそんなに大量のホルモンを投与しなくても、
2~7個の卵子が採取でき、
体外受精させた後で健康な胚を1つだけ着床させるというやり方が可能で、
この“マイルドIVF”は成功率にも遜色なく、
費用も通常のIVFの半分で、何よりも安全。


この記事を読んで、ぞっとするのは、
どの医療の分野でも薬の投与量には一定の推奨基準というものが定められているのに、
この排卵誘発剤だけはその基準リストに含まれておらず、
全く医師の裁量に任されているという事実。
(もちろん沢山使えば使うほど、
採取できる卵子の数が増える、成功率が上がる……)

生殖補助医療の世界は男性医師優位の世界であり、
患者の体をペトリ皿や保育器と同じ実験機材としか捉えず、
治療の成績を上げること、それによってクリニックの評価を上げることだけに血道をあげる
マッチョな男性医師らを呼び習わす“baby god”という言葉さえあるのだということ。

医師らの言葉をいくつか以下に。

現在の英国における根本的な問題というのは、
たいていの患者は自費で治療を受けるわけだから、
彼らにベストな成功率を出してあげる責任を我々としては感じること。

一回失敗すれば、それだけ患者の信頼を損なう。
患者というのは、なるべく短期間で妊娠したいのだから。

要するに、商売なんだから、
生みたいという客には生ませてあげる、
それで女性の体がダメージを受けようと
生まれてくる子どもにもリスクがあろうと、
ここでは生ませた数だけが問題、ということですね。

もちろん“客”の方にも考えるべきことがありそうですが、
以下の発言は、いったいどうなんでしょう?

IVFを行う医師が患者の望みをかなえてあげる腕もずいぶん上がってきたから、
そろそろ安全性にも、もう少し注意を払い始めてもいいだろう。

え……? と絶句してしまった。

だって、この発想、順番がカンペキ逆では?