Watsonの差別発言から考えること

既にあちこちで取り上げられているようですが、
DNAの構造を解明したノーベル賞受賞者James Watsonの人種差別発言が問題になっているとか。
「アフリカ人はヨーロッパ人よりも知的レベルが低い」という意味の発言をし、
予定されていた講演の中止が相次ぐなど、騒ぎになっているようです。

BBCのニュース Lab suspends DNA pioneer Watson(10月19日)に、発言意図が誤解されているとの本人の釈明があるので、
その部分だけを抜き出してみると、

I can certainly understand why people, reading those words, have reacted in the ways they have.
To all those who have drawn the inference from my words that Africa, as a continent, is somehow genetically inferior, I can only apologise unreservedly.
That is not what I meant. More importantly from my point of view, there is no scientific basis for such a belief.
We do not yet adequately understand the way in which the different environments in the world have selected over time the genes which determine our capacity to do different things. The overwhelming desire of society today is to assume that equal powers of reason are a universal heritage of humanity.
It may well be. But simply wanting this to be the case is not enough. This is not science. To question this is not to give in to racism. This is not a discussion about superiority or inferiority, it is about seeking to understand differences, about why some of us are great musicians and others great engineers.

何を言っているんだか、こちらのインテリジェンス不足のためよく分からないのですが、
問題発言を行った政治家が「誤解」を解こうとしゃべればしゃべるほど、
差別の自覚がないのは元々の差別意識がそれだけ根深いためだとの事実を白日の下にさらし、
さらに墓穴を拡げていくのと同じような……?

このWatson発言に対し、
「肌の色とインテリジェンスとの関連には、科学的にも遺伝子コードにおいても裏付けなどない」と
Craig Venterが批判しているとのこと。

しかし、Watsonの差別発言だけを考えれば、人種差別の問題なのでしょうが、

もう少し広く、
WatsonやらVenterやら、その他 “バイオ系”やら“ナノ系”やら“コグノ系”やら“インフォ系”やら、“ポスト・ヒューマン”系やら“トランスヒューマン”系やらの人たちが言っていることの中で、
この発言を聞くと、私が理解できないのはむしろ、

なんで、この人たちはみんなして知能、知能って……
知能だとかインテリジェンスだとかばっかりに、どうしてそんなにこだわるかなぁ……? 

だって、

Venterにしたところで、Watsonにしたところで、自分たちのインテリジェンスが
当然のことながら暗愚な一般大衆とははるか別の次元にあることは
証明するまでもない事実と受け止めているのであって、

もちろん彼らは正真正銘の天才なのだから、
我々とは比べるべくもないほど頭が良いことは否定できない事実であるにしても、

そのことによって、
いろんなことを決める資格がある人間とそうでない人間というふうに人間の間に線を引いている気配、
もしかしたら、そこまで明確に意識しているわけではないかもしれないけれど、
例えば人類が将来進むべき方向性を決める資格がある人間とそうでない人間との間に線を引いている気配を、
彼らはそこはかとなく漂わせているように私には往々にして感じられるのであり、

その気配には、ほんのうっすらにせよ、「支配ー被支配」という関係性が透けて見えるような気もして、

本当に深刻な問題は、
そのように人間の数多くの資質の中からインテリジェンスだけを偏重する彼らの価値観であり、

そうした偏った価値観を持つ新興テクノロジー分野の天才たちによって、
人間がインテリジェンスだけをものさしに階層化されつつあることのほうじゃないか……と。