Strunk v. Strunkを論じた論文

以下いったんアップしたのち、当該論文をもう一度読んで少し加筆しました。

ボストン大学法学部の刊行物の中に、 前回のエントリーで触れたStrunk v.Strunk とその他の判例を論じている“Organ Harvests from the legally incompetent: an argument against compelled altruism”という論文を見つけたので、取り急ぎご紹介を。


(文末にある脚注番号で142番のあたりからが該当箇所です。)

私は内容をちゃんと解説できるほど知識はないし、きちんとこの判例を理解するためには他に適切な文献もあると思いますが、臓器移植の代理決定の問題にここで深入りすると脱線しすぎになるので、とりあえず、たまたま見つけた文献で勉強しながら……ということで、以下、文中からStrunk訴訟について分かる範囲でまとめてみました。

Strunk v. Strunk

1969年ケンタッキー州の上訴裁判所での判断。報告された初めての臓器移植訴訟。レシピエントは腎臓病で死に瀕している28歳のトミー。ドナーは知的障害があり6歳児相当の知能とされる27歳のジェリー。家族の中でマッチしたのはジェリーのみだった。裁判所は臓器提供を財産の処分と同じとみなし、母親の同意だけで代理決定を認めるとしたもの。財産についての代理決定原則を、本人には不要な医療決定に広げた米国最初の裁判とされる。また生まれてずっと同意能力がない状態の人のケースへと代理決定権を拡大した判例でもある。コスト対利益の分析によって同意能力のない人の最善の利益を決定する一方で、代理決定を認めた点で、不幸な前例となった。

その後、同様な訴訟では代理決定原則の範囲を巡って判断が分かれているようです。いくつか判例が挙げられていますが、1990年に Curran v. Bosze訴訟で、子どもと同意能力のない大人にとって臓器提供が最善の利益とみなすために裁判所が検討すべき3条件を示しているので、それのみ紹介しておきます。

1.親は臓器採取処置のリスクとメリットとを知らされていなければならない。
2.主たる介護者がドナーに必要な精神的サポートを提供できる状況になければならない。
3.ドナーとレシピエントが親密な関係になければならない。


この論文のアブストラクトと、その大まかなまとめを以下に。

Organ transplants may offer the best hope of long term survival for individuals afflicted with certain cancers or other debilitating diseases. The hope that a transplant may inspire in an organ recipient should not, however, be the determinative factor when the proposed source of the organ is incompetent. Competent adults are not compelled to act altruistically by undergoing a surgical invasion for the benefit of third parties. Children and mentally incompetent adults should likewise be protected from such compelled altruism. Case by case adjudication of petitions to harvest organs from incompetents are inevitably driven by a concern for the recipient and an unwarranted deference to parental authority, and not by concerns for the autonomy and well being of the incompetent donor.. This Note argues that organ harvests from legal incompetents should be statutorily prohibited.

同意能力のある成人であれば愛他的臓器提供を強制されることはないのだから、子どもと知的障害のある成人も同様にそのような強制からは守られるべき。同意能力のない人からの臓器提供をケース・バイ・ケースで判断すると、ドナーの自己決定権と幸福よりも、レシピアントへの配慮と、正当性が曖昧なまま親の決定権が尊重されることが避けられない。法的に同意能力のない人からの臓器の採取は法律で禁じられるべきである。