どうしてそんなにオドオドしている? (Joel E. Frader 2)

Scientific American.comのメール討論(1月5日)で、Frader医師はトップを切ってだいたい以下のような内容のメールを書きます。

両親の決定を支持するとの医師らの判断について論文はreasonablyにディフェンドしている。障害児の介護を考えれば、背が大きくなることは当該児にとっても同様の子供にとっても利益にならないことは明白。ただし子宮摘出はその侵襲性から正当化できにくい。家族も医師もレイプの可能性を云々しているが、その不安を裏付けるエビデンスは存在しない。基本的には社会福祉の貧困という問題だとの指摘は正しい。ただ、現実にサービスが無いのだから、このシアトルの患者の成長抑制はリーズナブルであり、思いやりある(!)両親の決定権の範囲だろう。

(Fost医師と同じくFrader医師も、あのお粗末な論文を説得力があると言っていることに注目してください。またFrader医師が両親をcaring だと形容し、Fost医師も担当医らをcaring だと形容していることにも。)

その後、他の2人のメールの後、

論文で医師らが挙げている「生理の問題」以外の2つの理由「副作用の軽減」と「将来の病気予防」とは理解できるにしても、病気予防のための臓器摘出はどこまで許されるものなのか。(成長抑制に使われた)エストロゲンにも発がん性がある。

一番面白いのはこの後。わずか4分後、誰からも反論が来ないうちに彼は慌てて追加メールを送るのです。

一応、確認までに。Fost先生に私は同意なのであり、Fost先生にも他の皆さんにもそのことはご理解いただきたく。私はGunther先生、Diekema先生と共に家族が下した決断を支持しているのです。ただ、それでもなお、重症障害者の介護支援の不十分という問題は別個に考える必要があると考えるものです。

恐らくFrader医師が恐れていたように、彼の子宮摘出への疑問提示に対してここでFost医師から反論。(内容はNorman Fost4のエントリーに。)その後でFrader医師は、

大筋で同意です。しかし、生理が始まるまで待って、実際にどの程度の問題が起こるか様子を見てからでもよかったのでは。この問題を私が取り上げるのはアシュリーのケースで取り立てて懸念があるという意味ではなく、読者に対して、他のケースで軽率に行われることがないよう警告するためです。

Frader医師は既に多くの人から出ている指摘の他にも、「レイプ不安を裏付けるエビデンスはない」、「生理が始まるまで待ってみてもよかった」と独自の鋭い指摘も行っているのです。それなのに、何故こんなにオドオドしているのでしょう。

アシュリーのケースについては、つまりシアトル子ども病院の医師らについては自分はあくまで賛成・支持・容認派なのであり、批判派に回ったと誤解されては困る……そのことだけは(誰に、なのでしょう?)アピールしておかなければならない……そんな意識がありありと感じられます。

【追記:そんなに誰かが怖いのなら黙ってすっこんでいればいいのに、それでもこうして批判すべき点だけはちゃんと述べていることを考えれば、案外に小心なのではなく実は勇気ある人なのかも?】

“アシュリー療法”論争で様々なブログで医師らの発言が引用されるのを読むたびに私が気になったことの1つは、医師らの発言内容への無条件の信頼。「医者だから科学的な真実だけを語っているはず」、「専門家の判断は科学的真実」との思い込みでした。しかし医師らの世界にも政治的な事情というものはあり、カラスが黒いと分かっていても複雑な権力の相関図の中を泳ぐためには、「多少黒っぽいかな、と自分としては思うけれど、でも白だというナニナニ先生のご発言には鋭い洞察が含まれて、さすがだと感服」くらいのことは言わなければならない場面だってあるでしょう。人間の社会である以上。

医師の世界も社会経済的政治的コンテクストの中で動いていることを前提に登場する人物の発言を読むか読まないかで、“アシュリー療法”論争は全く違った様相を見せるのではないかと私は考えるのですが。

ちなみにFrader医師は2006年7月14日にワシントン大学医学部において、ワクチン接種を拒む親への対応について講演しています。

【追記:その後、この講演は2005年からシアトル子ども病院トルーマン・カッツ小児生命倫理センターが毎年夏に開催している小児生命倫理カンファレンスでの講演だと分かりました。2006年のカンファレンスはワクチン接種がテーマでした。これまで3回開かれているカンファレンスにスピーカーとして登場したドクターらの顔ぶれを見ると、アシュリー療法論争で擁護に登場したドクターがFost、Fraderの他にも一人います。2007年のカンファレンスではFostが講演冒頭で”アシュリー療法”論争に触れており、興味深い点が多いので、これらカンファレンスについては後に改めて書きます。】