親のブログがなかったら隠蔽は成功していた?

去年の秋に発表された論文は「いかに分かりやすく誤解を招かないように書くか」という常識的な注意を払って書かれたものというよりは、わざわざ「いかに紛らわしく誤解を招くように書くか」という点に知恵を絞って書かれたもののようにも思えます。言い換えると、「実際に起こったことの一部がバレないように」書いてあるといってもいいかもしれません。執筆者にとって特に「バレてほしくなかったこと」は、これまで見てきたように以下の3点のようです。

   1. 乳房芽を切除した事実
   2. 子宮を摘出した本当の理由
   3. 倫理委員会のメンバー構成

論文が書かれた時点では、両親のブログはまだ存在しないことに注意してください。

おそらく執筆者は、論文発表の2ヵ月後に両親がブログを立ち上げることは予測していなかった、という推測が成り立ちます。なぜならば、知っていたとしたら乳房芽の切除の事実や子宮摘出の本当の理由について、わざわざ苦労して論文で隠しても意味がなくなるからです。両親のブログのおかげで、我々は真実を知ることになったとも言えるわけですが、しかし、これを裏返して考えてみると、大変コワイことにならないでしょうか。もしもアシュリーの両親がブログを立ち上げて彼らのバージョンの事実説明を行わなかったら、未だに乳房芽が切除された事実も子宮摘出の本当の理由も隠蔽されたままだったかもしれないのですから。

ところで、上記3.の倫理委員会のメンバー構成については、どうでしょうか。この点については乳房芽の切除や子宮摘出とは違って、WPASの調査報告書が出た現在になっても、我々は何も知らないままなのではないでしょうか。

(両親のブログでは倫理委員会のメンバーは約40人で男女半々だったと書かれています。これを受けて、多くのメディアが「40人ものメンバーの倫理委で検討した」と報じました。が、これは今後の回でまた詳しく述べますが、両親のカン違いと思われます。目立たない場面でしたが、ワシントン大学のシンポでも、この点についてのやり取りがありました。Alice Dregerさんが「だって倫理委のメンバーは40人もいたんでしょう?」と会場の質問者に問いかけた際、彼女の隣に座っていた子ども病院のCarter医師が They LOOKed like 40.「40人のように見えたんだよ」と「見えた」を強調して答えました。)