医師らの論文にはマヤカシがある その4

ゥ▲轡絅蝓爾侶錣鮓‘い靴仁冤?僂離瓮鵐弌爾砲弔い討録┐譴討い覆い里法⊃┐譴討△襪隼廚錣擦觜妙な誘導が仕組まれている。

この問題に重大な興味関心を持っている人の中には、この論文を実際に読まれた方もあるでしょう。多くの人が「あの論文には倫理委のメンバー構成が書かれていた」という印象を持っておられるのではないでしょうか。実は私もそう思っていた1人でした。

論文には2箇所、検討委員会のメンバーとして医師の専門領域が列記された箇所があります。内訳は内分泌、神経学、発達、外科、そして倫理学の分野の小児科専門医。私も最初に論文を読んだ時には、「アシュリーの問題を検討した倫理委には一通りの分野の専門医が揃っていたのだな」と理解して次に読み進みました。まだ情報収集を始めたばかりで、事件の全貌すらよく分かっていなかった頃のことです。
 人はよほど何らかの特別に強い理由や動機を持って読むのでなければ、いちいち指で押さえて細部を確認するような読み方はしません。他の情報とつき合わせてみるということもしません。なるほど、こういう人たちが倫理委員会にいたのね、くらいの把握で先に進み、それきりになります。

が、これは全くのカン違いなのです。注意深く論文を読み込んでみると、ここに書かれているメンバーはアシュリーのケースを検討した倫理委員会のメンバーのことではありません。今後出てくる可能性のあるケースに対応すべく、「これから用意しようという検討委員会」のメンバーのことなのです。

今回のアシュリーへの医療処置で前例ができたことで、今後の症例への適用が当然のことながら問題となります。それは執筆者も念頭にあったようで、このような療法が恣意的に適用されてはならないので、きちんと公式な検討グループが必要だとの見解が「倫理の議論」という項目に述べられています。そこで目下、組織内に検討グループを召集しているところであり(注)、その構成員が先ほどの内分泌、神経うんぬん。こちらの箇所については項目からしても前後の文脈からしても自然なので、読み誤ることはないでしょう。

私が読み誤ったのは、これと同じことが言葉を少し変えて、「症例報告」の中にまで書かれているためです。「イントロダクション」に続く「症例報告」の中。先の「倫理の議論」よりもずっと前です。「倫理委員会は家族にも本人にも会って協議し、このケースについては妥当とのコンセンサスに至ったという一連の流れに続いて、改行もせず、「倫理委員会は今後の検討委員会の必要にも気づいたので検討委が計画されており、その構成員は小児専門医で内分泌と神経と……」と、一息に書いてしまうのです。
今後の課題なのだから、一般的には論文の後半に置かれるはずの話でしょう。それがこんなに前の段階で、しかもアシュリーの症例報告の中に紛れ込んでいる。普通にこの論文を読む人が「症例報告」の中で、この文脈で、無意識に予測するとしたら、それは当然アシュリーの委員会についての詳細です。しかし、それはないのです。その代わりのように置かれているのが、この、今後に向けての検討委員会のメンバー。まるで誤解してくれといわんばかりに。

確かに執筆者が嘘を書いたわけではありません。が、これが誘導でないのならば、なぜ、まだ出来上がってもいない検討委員会のメンバーをこんなところにわざわざ並べる必要があるのか。これは相当に手の込んだ、知恵を絞り周到に準備されたトリックと言えないでしょうか。

「従来行われている医療ではなく論議を呼びそうなので、病院倫理委員会にかけた」と論文に書いたのは、執筆者自身です。また、「成長抑制療法の恣意的な適用を防止するためには、公式なメカニズムが存在することが適切、いや恐らく必要ですらある」、「この(準備中の倫理委員会による)アプローチは、施設内審査委員会が承認した治験実施要綱と併用されれば理想的だろう」とまで書いています。つまり、今後考えられるケースについては、倫理委員会以上の検討手段を加えて、もっと慎重に厳密に検討する必要がある、この療法については人体実験と等しいほどの慎重さで検討する必要がある、と述べているのです。

Deikema医師自身、シアトル子ども病院のスタッフ紹介ページのプロフィールによると、同病院の施設内審査委員会の委員長の一人です。その彼が、アシュリーに行われた成長抑制療法を巡る論文で、この療法の恣意的適用を懸念して、これだけのことを書いているのですから、この件での倫理問題の大きさを充分に認識していなかったはずはありません。controversy な療法だとの認識はあったのだから、普通に考えたら執筆者としても今後予想される批判をかわすためにも、明示しておくべき情報であるはずです。それなのに、どうしてその詳細を書かず、こんな手の込んだ姑息なトリックを論文の中に仕掛けるのか・・・?



(注)WPASの調査報告書に添付されたExhibit F(子ども病院からWPASに宛てた1月22日付書簡)によると、子どもの成長抑制/不妊検討サブ委員会が2005年4月に立ち上げられています。時期的には、論文が発表された2006年秋の時点で既にできていたことになるのですが、論文の中ではplans were instituted to convene an interdisciplinary review panel そして we are convening an interdisciplinary group という表現しかありません。これまた奇妙な点です。

 さらに、Exhibit Fの書簡に添付されていたサブ委員会に関する規定(Exhibit G)によると、このサブ委員会の位置づけは病院の質改善推進委員会の下部組織です。論文で人体実験に比するほど慎重な倫理上の検討が必要だと述べていたことを考えると、これは奇妙な位置づけだと疑問に感じるのは私だけでしょうか。この文書のScope and Activitiesの項目に、再び質改善推進委員会のサブ委員会であることを明記した後、この委員会の会議については州の規定に基づいて非公開だとあります。病院のサービス向上の取り組みの一環としての委員会の位置づけに加えて、記録の一切が非公開の会議。これで本当に、論文が懸念していた「恣意的な適用」へのセーフガードといえるのでしょうか。

 とはいえ、病院倫理委員会と質改善委員会のサブ委員会という位置づけとの違いというのは、本当のところ、よく分かりません。ご存知の方、教えていただけると幸いです。Exhibit F で挙げられているのはRCW 70.41.200。品質改善と医療過誤防止プログラムについてのワシントン州の規定のようです。
(追記)ここで私が気にかかるのは、もしかしたら記録を非公開にするために、わざわざこのような位置づけにしたのではないかという疑問です。でも、それならば弁護士を沢山動員したはずのWPASの調査でも当然問題になったはず、という気もするのですが。