「重症化する患者を選別する」“患者管理”サービス、IT企業の「ビジネス・チャンス」

メディカル・コントロールと新・優生思想の周辺から出てくるニュースには
それまで想像もできなかった形の科学とテクノロジーの応用に仰天すると同時に、
考えてみれば、いろいろ起こっていることの当然の帰結だなぁ、と
改めて納得させられる……ということが、とても多いのですが、
そして、それが起こる間隔がどんどん狭まって
世の中の変化が加速しているとも感じているのですが、

これもまた、そういうニュース。

これまで思ってもみなかった、「無益な治療」論の今後の可能性――。
でもこれは、考えてみれば、やっぱり、これまで起こってきたことの当然の帰結――。


Altruista HealthというIT企業が
これまでの医療に関するデータの蓄積に基づいて
病院や医師が、病状が深刻化する患者を予測するためのアルゴリズムを開発。

この技術を、医療提供者に販売するのは
Hewlett-Packard社が所有するインドのIT企業、Mphasisの医療保険部門、Eldorado。

重篤になる患者を予測するだけではなくて、
最もコスト・パフォーマンスの良い治療の選択肢まで
提言するサービスとして。

記事には「一種のトリアージ」という表現も。

NYでメディケイド患者の医療費負担を担うNPOのAffinity Health Plan では、
Altruistaを使い始めて3ヶ月で、病院への再入院率が50%も下がった、という。

ワクチンや遺伝子診断技術に関する報道記事がそうであったように、
これもまたビジネス・セクションの記事。

「ワクチンの10年」がビジネス欄で語られる時にも使われていたように
ここでも a golden opportunity という経済アナリストの表現が目に付く。



Altruista社の創設者の一人、Ashish Kachru氏は
保険会社のビジネス・リスク管理部門の責任者だった人物。

そういう仕事をしていた時に、
「どの患者が治療を必要とするか、病院はもっとうまく決められるのに」と思った。

「つまり、患者の管理をどうやっているか、という点で
損失を出していたわけです」と同氏。

だから、つまり、このサービスのコンセプトは、
リスク管理」としての患者マネジメント、なわけですね。

Kachru氏は
「患者がヘルス・プランを利用する期間の平均約2年間だと分かりました。
そして、何らかの利益が出始めるには、
患者の健康を改善するために約2年間かかるということが分かったんです」

そこでCULAサン・ディエゴ校と提携して
膨大な医療データを収集、分析し始めたのが、この技術の始まり。

ここでも、考え方はこんな感じ? ↓
医療費削減に繋がるかどうかの問題? WPの新型遺伝子診断記事(2012/11/29)


で、頭に浮かぶのは、

新型遺伝子診断でも「情報提供」だとか、あくまでも判断をhelpするんだとか
もっともらしいことが言われつつ、実際は障害児の排除が進められていくように、
このプログラムも「情報提供」だとか、コストをかけない良質の医療への提言だとか
もっともらしいことが言われつつ、進められていくのは
重症化すると予測される患者の切捨てなのでは……?

でも、医療というのはもともと個別の問題なんだから、
これまでのデータに基づいて「この患者は重症化する確率が高く、コスト高患者の候補」とか
「これまで、この病気でこの症状の患者にこの治療は有効ではなかったから
高価な治療でもあり、この患者には勧めない」といった判断をされても

データで重症化する患者が8割だったからといって、
個々の特定の患者が重症化しない2割に入る可能性は否定できないし、

だからこそ、治療の選択肢と関連データをきちんと説明され
患者はそれを納得した上で治療に同意する、インフォームド・コンセントの重視なのであり、
そこにこそ患者の自己決定権の尊重があったはず。

医療というのは、あくまでも個々の患者の治療が目的なのに、
個々の患者の状態にはお構いなしにデータの確率論で
医療そのものが拒否されていくのなら、

このプログラムのコンセプトそのものが
個別の医療判断のあり方とは相容れないんでは? と思うのだけど、

米国の医療職の人たちって、そこのところ、どう感じておられるんでしょう?

そういうことが指摘されにくいように
メディケア患者から適用されていくのか……?



もう一つ、引っかかるのが、この会社の名称。

Altruistaって、
どう考えたって元になっているのは altruism という言葉ですよね。

だから、どうしてもeffective altruism を連想させられてしまうわけで ↓
Peter Singer「利他主義のすすめ」:5000ドルの途上国支援すれば腎臓1個提供するに相当(2013/8/4)

そうすると、このサービスが提唱していくことって、
「このサービスが提供する“一種のトリアージ”で引っかかった人は、
確率の低い医療を受けてメディケイドの限られた資源を無駄遣いするよりも、
そんな医療は受けずに、同じ金額を他の人の治療にまわしてあげるのが
貧乏な人にもできる効果的利他主義の実践」……???