「バーモント州が自殺幇助合法化・障害者への医療差別」書きました

バーモント州が自殺幇助を合法化(米)

 米国バーモント州で、5月14日、終末期の人に一定の条件付きで医師による自殺幇助を認める法案が議会を通過。11年に当選した際、選挙公約に自殺幇助合法化を挙げていたピーター・シュムリン知事は20日に署名し、「終末の選択法(the End of Life Choices law)」が成立、即日施行された。

すでに医師による自殺幇助を認める法律があるオレゴン州ワシントン州では共に住民投票によって合法化が決まったのに対して、バーモント州は立法議会によって決まった米国で最初の州となった。米国ではここしばらく、多くの州の議会で同様の法案提出が相次いでおり、4月にはコネチカット州モンタナ州、5月末にはメイン州で否決されたが、まだ7州で審議中という。

 米国以外でも、オーストラリアのニュー・サウスウェールズ州議会が医師による自殺幇助合法化法案を否決。アイルランドでは多発性硬化症(MS)患者、マリー・フレミング(59)が死の自己決定権を求めて起こした裁判で、判事は死ぬ権利は存在しないと判決した。フレミング立法府に対しても合法化を訴えたが、エンダ・ケニー首相もこれを拒否。一方、英国では5月20日、かねてより合法化推進派の最先鋒であるファルコナー上院議員が議会に法案を提出し、大物医師らからも連名で法案を支持する声明がTimes紙に寄せられた。いずれの国でも、メディアが大きく取り上げて激しい論争となっている。

身体障害者への医療差別

マサチューセッツ州のベイステイト医療センターのタラ・ラグ医師らが、米国内科学会誌3月号で興味深い調査結果を報告している。肥満した半身まひの架空の患者を想定して、米国の4市で様々な診療科の256の医療機関に診察予約の電話をかけたところ、22%が受け入れられないと答えた。理由に挙げられたのは「患者を車いすから診察台に移すことができない」「建物がアクセス不能」など。高さ調節の可能な診察台またはトランスファー用のリフトがあると答えたのは、わずか9%だった。

この調査について、ある医師がニューヨーク・タイムズに「医師の診察室での障害と差別」と題した論考(5月23日)を寄せた。米国障害者法ADAの制定から23年になろうとするのに障害者は適切な医療を受けることができていないと指摘、医療サイドのADA理解や意識の改善と、物理的な環境整備にかかるコスト面での対応が必要だと説いている。

知的障害者への医療差別

 英国の知的障害者アドボケイト団体、メンキャップは、知的障害者への医療差別の問題と取り組んできた。2007年には衝撃的な報告書『無関心による死』を刊行し、保健省の費用による非公開の実態調査の実施につながった。

その調査結果が3月19日に報告されたところによると、NHS病院での知的障害者の死亡件数のうち37%は死を避けることができたケースと考えられる。年間1238人の知的障害児者が、適切な医療を受けられないために落とさなくてもよいはずの命を落としていることになる。調査に当たった専門家らは、今後もデータ収集を続け、深刻なケースでは調査を行えるよう、知的障害者死亡率調査委員会という全国組織の立ち上げを提唱している。

 メンキャップは一貫して医療差別解消に向けたキャンペーンを行っており、このほど医療専門職と各種医学会と協働で「医療差別をなくす憲章」を作成した。冒頭に書かれているのは「障害ではなく、その人を見てください」「知的障害のある人はみんな、医療を受ける平等な権利があります」「すべての医療専門職は知的障害のある人々に提供する医療において合理的な配慮をする義務があります」「すべての医療専門職は知的障害のある人々に高い水準のケアと治療を提供し、その命の価値を重んじなければなりません」。

その後、病院サイドの視点で「私たちは○○します」と書かれた9つのチェックボックスのついた宣言が並んでおり、各病院ごとにチェックを入れた「憲章」を掲示してもらおう、という趣旨。そこで宣言されているのは、例えばスタッフへの知的障害の啓発研修や、家族や介護者の意見の尊重などだが、私が特に興味深いと思ったのは「私たちの病院に知的障害のある人々のためのリエゾン・ナースを置きます」という項目だ。これは知的障害者に限らず、精神障害者、難病患者、高齢者、認知症の人々にも通じていく「憲章」なのではないだろうか。

「死の自己決定権」が仮に成立するならば、その前提には、誰もが平等に医療を受けられる権利がまず保障されていなければならないはずだ。

連載「世界の介護と医療の情報を読む」
介護保険情報』2013年7月号