2013年7月23日の補遺 (前)

まずは一昨日、3つもエントリー原稿を書いて一晩寝かせておいたら、
昨日の朝一番のPC崩壊で消えてしまい、書き直す気力がわかないので、
このまま幻のエントリーとなりそうな話題を2題。

(残り1つは向井承子『患者追放―行き場を失う老人たち』の読後メモだったのだけれど、
入れ込んで書いただけにパァになったショックで沈没したまま)

① カナダのTayor訴訟やアイルランドのFleming訴訟にもかかわった「死ぬ権利」擁護派の米ユタ大学の生命倫理学者 Margaret Pabst Battin と四肢まひの夫との穏やかな「最良の時間」。(ビデオがとても良いです)

自転車事故で四肢まひ、人工呼吸器依存となった夫が死にたいという意思表示していたのに、Battinは夫が急変した際には救急部に運び込んで救命した。その後、大学教授の夫は呼吸器をつけたまま講義を再開し、生きていることを喜びながら暮らしている。Battin自身も現在の夫婦の生活は2人で過ごした「最善の時」だと語り、時に夫が痛苦から死にたいと願うことがあるが「彼が本当に本当にそういうところに至ったと私が確信できるまでは」と。

BioEdgeのCookは「愛され十分なケアを受けられる患者は生きたいと強く、揺らぐことなく望むようだ。死んだほうがましだと絶望する瞬間はあるが、実際に死を選ぶ瞬間は決して訪れることはないように思われる」「自律がそれほど明確な原理なら、このケースではどうして機能しないのだろう? もし機能しないなら自律原理には一貫性がない。一貫しないなら捨てるべきでは?」

NYTのビデオでのBattinの静かな語りがとてもいいんだけれど、ビデオを見ると、夫のRobertさんには24時間体制でプロの介護士が付いていると思われ、「愛され十分なケアを受けられる」以外に「家族に過剰な介護負担がかからないこと」も患者が生きたいと願うことができるための条件なのだろうな、とも。
http://www.nytimes.com/2013/07/21/magazine/a-life-or-death-situation.html?hp&_r=2&pagewanted=all&
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10608#comments

米VA州のダウン症の女性(IQ50とのこと)Margaret Jean Hatchさんに、自分が誰とどこで暮らすかを自分で決めることは認められるのか。法定代理人は必要なのか、必要だとしたら誰なのか。

離婚した両親とは折り合いが悪く、両親のいずれも共に暮らすことはできないと言いながら、Margaretさんがグループホームから出て友人夫婦と暮らすことは認めず、自分たちが法定代理人となり娘の交際範囲まで管理しようと提訴。裁判の途中、Margaretさんは裁判官の言葉途中で「私には代理人は要りません」と発言し裁判官に退廷させられた。自立生活のためには支援は不可欠。誰がどのように支援するのがよいのか。:難しい問題。けれど日本ではこんな訴訟など論外なほどに親の代理決定権が当然とされていることも、大いに疑問だと改めて考えさせられる。
http://www.washingtonpost.com/local/virginia-woman-with-down-syndrome-seeks-power-to-live-the-way-she-wants/2013/07/20/76102a82-d789-11e2-a9f2-42ee3912ae0e_story.html

             ――――――
(ここから、通常の補遺です)

米国と英国それぞれで、DNR指定が本人の同意も家族の同意もなしに行われている、との調査結果が発表されている。英国のはケアの質コミッションの報告書だというので、リヴァプール・ケア・パスウェイの機械的適用問題での調査結果だと思うのだけれど、Popeのブログ記事すら、まだ読めていない。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2013/07/hospital-inspection-reports-show-dnr.html



カナダ、バンクーバー精神科医で元BC州医師会会長のDerryck Smith医師が自殺ほう助ロビー団体に加盟。:精神科医には自殺を敗北とみなす文化があるんだとばかり思っていた……。
http://www.vancouversun.com/news/Vancouver+doctor+joins+board+right+group/8684839/story.html

中国でのグラクソの贈賄スキャンダルで、グラクソ側が幹部による贈賄と性的便宜供与を認めた。GSK has admitted that some of its senior Chinese executives broke the law in a £320m cash and sexual favours bribery scandal.
http://www.guardian.co.uk/business/2013/jul/22/glaxosmithkline-admits-bribery-china?CMP=EMCNEWEML6619I2

NYT. 中国でのグラクソ・スキャンダルは違法な販促にとどまらず、研究にも疑義?
Glaxo’s problems in China may not just be about its sales practices. They may also concern its research.

製薬会社に対して治験データの全面公開を求める動きがあることに対抗するため、製薬会社が患者団体を反対ロビーに動員している
http://www.guardian.co.uk/business/2013/jul/21/big-pharma-secret-drugs-trials?CMP=EMCNEWEML6619I2



オーストラリアで、本人への最善の利益であれば認められている障害者への不妊手術を禁じるべき、とする報告書。Cookは「多くの親が子どものストレス軽減と性的虐待防止のため不妊手術を最善の方法と考えているので、報告書の勧告は物議を醸す」と。:アシュリー療法の正当化そのもの。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10610#comments

インドの代理母産業での虐待の実態が報告書 “Surrogacy Motherhood: ethical or commercial?”に。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10612#comments

米国外科学会誌に、肝臓を部分移植することによって一人の生体ドナーで2人の命を救うことができる、とする論文。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/263602.php

日本。新出生前検査 陽性の3人中絶
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130717/k10013104551000.html

日本。出生前診断に賛成の声多数…施設拡大を望む声も
http://iryojinzai.net/1616.html

肥満抑制の遺伝子発見=壊すとマウス体重2倍―名古屋大:遺伝子を操作するということは、遺伝子が変異してきた膨大な時間の流れを無視した暴力的な加速だというような意味のことを、福岡伸一さんが言っていたことを思い出した。⇒福岡伸一の“動的平衡”生命観と“科学とテクノで簡単解決文化”批判2(2011/5/6)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130719-00000008-jij-sctch