一方的な「無益な治療」拒否のアリバイ化するPOLST

POLSTについては

去年、以下のNYTの記事で初めて知ってエントリーに書いた段階で、
こういうことになるんでは……という予感があった。


現に、この時、私は以下のように書いている。

すぐに頭に浮かんだのは、
一方には「無益な治療」法の広がりがあるんだけれど、
これらの整合性って、どういうことになるんだろう??

患者がPOLSTで「やってほしい」と望んでいる終末期の治療があるとして、
病院側が「それはこの患者には無益」と判断した場合には……?


POLSTとは、この時のNYTの記事によると、
Physician Orders for Life Sustaining Treatmentのことで、
生命維持治療に関する医師の指示書

医師が主導して患者の終末期医療について話し合いをして
終末期医療に関する患者の意思を確認し、
医師の指示書という形で1枚の様式に記録しておく、というもの。

つまり、少なくとも表向きは、あくまでも患者の意思の尊重のために、
医師が聞きとり、医師の指示という形で記録しておく、というもの。

そのPOLSTが続々と法制化されている。

と同時に、どうやら
事実上の「無益な治療」の一方的な拒否件の法制化のアリバイに使われ始めているのでは?

Thaddeus Popeのブログ記事2本から以下に。

4月のインディアナ州に続いて、ネバダ州がPOLSTを法制化し、
Thaddeus Popeによると、これで米国でPOLSTを法制化したのは20州に。

Nevada Enacts POLST Statute
Medical Futility Blog, June 15, 2013


そのうち、メリーランド州バーモント州では
臨床医は、万一の場合に心肺蘇生術が「無益」「医学的に効果がない」と考える場合には
患者や代理決定者の同意なしにPOLSTにDNR指定を書きこむことが認められており、
POLST記入用紙にも「同意なし」にチェックできる個所が設けられている。

またカリフォルニア州の法律でも
医師はPOLSTの内容に従って医療を行うものとしつつも、
「医学的な効果がない」または「一般に受け入れられている医療スタンダードに沿わない」
医療についてはその限りではない、としているが、
上記2州のように「同意なし」のチェック項目までは様式に含めていない。

しかし、実際には
どういう場合がそれらに当たるのかについて曖昧さが残るため、
現場医師らは提訴の可能性なども考え、慎重を崩していない模様。

POLST Authorizes Unilateral DNAR Orders
Medical Futility Blog, June 15, 2013



それにつけても、バーモント州と言えば、
つい先ごろ、自殺幇助を合法化したばかりの州。


つまりバーモント州では、医師による自殺幇助が
患者の「自己決定権」の尊重として合法化されて、

その一方では、
患者がPOLSTで「治療を受けたい」と「自己決定」していたとしても、
医師が「その治療は無益」と判断すれば患者の自己決定権は否定されることが法で謳われている。

つまり「もう死ぬ」は自己決定できるけど、
「まだ生きたい」という自己決定はできない、ということでは?

そもそも「無益な治療」論は、Popeも書いているけれど、
一体なにが「無益」に当たるのかについては定義が全く一定していないまま、
病院の文化や医師個々の価値意識によって極めて恣意的に運用されているのが実態。

カナダのラスーリ訴訟が進行中の病院では
その後も同様の無益な治療事件が続発しているけれど、
そのたびにスタンダードが変質・変容してきていて、

いちばん最近の事件での病院側の言い分は

「回復の見込みは皆無。
延命しても、その命が生きるに値するかどうか分からない場合には
延命には明確な利益はない。延命は苦痛を長引かせるだけ」