祝! Healthwatch 立ち上げ: 「ケアホームの劣悪な介護実態を消費者団体の潜入調査が暴く【英国】」書きました

実は以下の記事、
書いたのは2年も前なのですが、

この果敢な潜入調査をやった Which? で
長年活躍してきたAnna Bradleyさんがトップとなって、
去年10月に英国で医療と社会ケアに特化した消費者保護団体、
Healthwatch Englandという団体が立ちあげられていました。


NICE(英国医療技術評価機構)も質のスタンダード公式サイトで
Healthwatchへの支持を表明している。

なにしろ私がこの立ち上げを知ったのは、
認知症介護の質のスタンダードを示したNICEの「QS30」のサイトからでした。

なにやら胸躍るニュースなので、
「祝! Healthwatch !」エントリーとして
あっぱれな Which? の潜入調査について書いた連載記事を以下に――。


Which?(どれにする?)と、一風変わった名称を持つチャリティが英国にある。50年の実績を持つ消費者保護団体だ。洗濯機や車などの商品に使用者 の立場で厳密なテストを行って比較情報を雑誌やウェブを通じて届ける他、消費者を取り巻く様々な問題について考えてきた。また法律相談まで提供するなど、 広く消費者保護と支援の活動を行っている。

このWhich? が、今年初めに3人の俳優と女優を雇い、入所者として4つの高齢者施設に送り込んだ。洗濯機やアイロンにテストを行うように、介護施設のサービスを消費者 である入所者の立場でテストしたわけだ。ターゲットにしたケアホームは単独事業所から2か所、チェーン展開をしている事業所の施設から2か所をランダムに 選んだ。潜入中に3人がつけた記録を専門家を含むチームが分析し、調査結果が4月19日に報告された。そこで明らかになったのは、あまりにもお粗末な食 事、日中活動の不足、健康と安全への配慮の欠落、虐待に等しい劣悪なケア……。

覆面潜入した内の一人は一週間で体重が3キロも減少したという。ぱさぱさに乾いたサンドイッチなど、見るからに不味そうな食事は量が少なく、栄養バラン スも悪かった。3つの施設では夕食から次の日の朝食までの間が17時間もあり、その間を何も食べずに過ごさせられるかと思うと、1つの施設では朝食が10 時だというのに昼食が11時半に設定されていた。

日中活動は4施設のいずれにおいても不足しており、入所者は常に退屈していた。体操、クイズ、歌の時間などを一週間毎日欠かさずに行うと広報で謳ってい る施設で、その中のどの活動もまったく行われていない、というケースもあった。じめじめして不潔な施設やむき出しの電線が放置されたり、非常口が物でふさ がれているところもあった。

携帯電話で会話中の職員に片腕を掴まれてトイレへと引きずられる人。立ちあがろうとするたびに何度も乱暴に頭を押さえつけられ椅子に戻される人。まだ飲 みこんでもいないのにスプーンに山盛りの食べ物を次々と口に押し込まれる人。この人は「呑み込むまで待って」という合図で手を上げてスプーンを制したとこ ろ、もう要らないのだと誤解されて食事を下げられてしまった。「あの食事介助は見ていられないほど酷かった。もっと丁寧な介助だったら、あの人はもう少し 食べていたはずなのに」と記録者は書いた。食堂でトイレに行きたいと訴えたのに許されず、30分近くも放置されて泣きそうになる女性の姿も目撃された。

今回の調査結果はケアの質コミッション(CQC)に報告され、1つの施設は新たな入所者の受け入れ差し止め処分となった。またWhich?はCQCに監査・指導の実効性を高めるよう求めた。

この報告に、高齢者チャリティの間で衝撃が広がっている。英国年金生活者会議(the National Pensioners Convention)は「ケアホームは週800ポンド(約10万円)もかかるというのに、これでは介護とも呼べない。我々は自分で声を上げられない人の 代弁をしなければ。結局、監査システムが機能していないし、職員の専門性も欠けているということだ。ケアホームは安全な場所でなければ」。またAgeUK も「介護の質を上げるのはロケット科学のようにはいかない。歳をとって弱った人たちをどのように遇するかという、つまりは姿勢の問題。温かい言葉をかける とか、余分の時間をとって他愛のないおしゃべりをする、ちょっと手を貸すことなどによって全然違ってくる」。Which? では今後もAgeUKと連携し て、高齢者施設の介護の質向上に向け、活動していくとのこと。

英国では2009年に、潜入ルポをウリにしているBBCの「パノラマ」という番組が、レポーターをヘルパーとして事業所に就職させ、在宅介護サービスの お粗末を暴いたことがあった。来るはずのヘルパーが来ず24時間も放置される高齢者や、6か月も入浴はおろかシャワーすら浴びていない高齢者、ケイタイで 喋りながら清拭を行うヘルパー……。この時には、番組の隠し撮りに協力した看護師が看護師・助産師協会から資格登録を抹消されるや、看護学会がケアの質を 懸念した彼女の行動を支持し署名活動を展開するというオマケの論争もあった。

AgeUKや年金生活者会議が言うように、数値化できない面が大きいこと、サービスを受ける人たちが声を上げにくいこと、施設であれ在宅であれ密室空間 で行われることなどによって、いわば“普段着”の介護の質を評価することは難しい。それならば、こうした覆面潜入の“ミシュラン”方式も、一つの選択肢な のかもしれない。
連載「世界の介護と医療の情報を読む」
介護保険情報』2011年6月号