Vytorinスキャンダルで損害被ったと株主に訴えられたメルク、6億8800万ドルで和解

去年、以下のエントリーを書いた時に、


メルク社が
鎮痛剤 Vioxx がリューマチで認可される前から治療薬として違法なプロモを行い、
その後、心筋梗塞リスクが判明し、04年に市場から引き上げられた件で
売り上げのために心臓病リスクについて説明を偽った疑いに対して、
同社が11年11月に9億5000万ドルの賠償金を支払って
政府と和解したことについて書きました。

エントリーはその他のビッグファーマのスキャンダルも含めて
ProPublicaの記事を紹介したものですが、
メルクの和解単独では、当時のNYT記事はこちら ↓

Merck to Pay $950 Million Over Vioxx
NYT, November 22, 2011


で、そのメルク社、
今度はコレステロールを下げる薬 Vytorinを巡って、
またぞろ巨額の賠償金で和解した、というニュースがあったので、

同じような話なんだろうなと思いながら、
目を通してみたら……、びっくりしたなぁ、もう。

Vioxxのスキャンダルなんかとは、
また一味違う訴訟の話だった。

スキャンダルそのものは、
治験データを隠ぺいしたまま2002年にFDAの認可を受け、
スタチンよりも効くという触れ込みでVytorinを大々的に売り出して
ぼろ儲けしながら、実際に使ってみた医師らからそれほどの効果がないと
苦情が出て初めて治験データを明かした、という
昨今では「あら、ビッグファーマがまたやったのね」といった類のもので、

ここまでについては
メルク社はとっくの昔に消費者と保険会社から集団訴訟を起こされて、
09年に4150万ドルの賠償金で和解しているし、
同じく09年に消費者保護違反で調査を始めた検察とも
5400万ドルで和解しているんだとのこと。

それなのに、なんで今回また訴訟かというと、
なんと、この訴訟、メルクの株主たちが
そのスキャンダルで株価が下がったために
損害を被ったとして起こした訴訟だということ。

刑法違反の疑いや政府の調査とも関係ないのに、これだけ巨額の和解金というのは、
どうやら、前代未聞の話らしい。

このままゆくと3月には陪審員裁判になってしまうため、

「この件は済んだこととして
世界中の健康改善のための科学イノベーションに集中する方が
メルクにとっても株主にとっても最善の利益というもの」(メルクの関係者)と
6億8800万ドルを支払って和解することに同意。



08年から相次いで明らかになったビッグ・ファーマのスキャンダルについては
冒頭にリンクした「ビッグ・ファーマのビッグな賠償金」のエントリー末尾に
リンク一覧がありますが、




これらから見えてくるのは、なんというか、もう
治験データの隠ぺい、ねつ造は当たり前、みたいな……。

それで足りなきゃ自分たちのカネと自分たちでツバつけた学者に
自分たちでデザインした治験をやらせて、思い通りのデータを出させるわ、
その報告論文だってゴーストライターに書かせて羞じないわ、
プロモのためなら、どんなにゼニばらまいて、どんな汚いことだって……みたいな……。

それでバレて、訴訟を起こされたって、
相手が消費者だろうと政府だろうと株主だろうと、
それぞれに大枚のゼニさえ払えば「済んだことに」できるし……みたいな……。

でもって、プロモでばらまかれる大金も、
賠償金として支払われる大金も、みんな、みんな、薬を買う消費者につけ回されるわけで、
ビッグ・ファーマが本来の使命とはズレたところで
こうして湯水のように使うゼニの話を読むたび、考えてしまう。

医療費を押し上げている要因の一端は、実はここにあるのでは……?


それから、
もうひとつ、どうしても考えてしまうのは、例えばこういう「大きな絵」のこと ↓