BBCによる英国での自殺幇助議論「この10年」

BBCが、スイスのDignitasで英国人が自殺するようになってからの10年間の
自殺幇助合法化問題をめぐる動きをとりまとめている。



内容としては、これまで当ブログが追いかけてきた通りなのだけど、

注目情報は、

Next year a bill on assisted dying will be tabled in the House of Lords
来年、幇助死に関する法案が上院議会に提出されることになっている。


英国のメディアは意図的になのか無意識になのか、この問題では用語の選択にあまりにも不注意で、
それ自体がすべり坂の証でもあり、またもしや、すべり坂を意図して敢えてぐずぐずにした議論か、と
私は以前から懸念しているのだけれど、

ここでも assisted dying という文言が用いられている。

自殺という言葉を含んで assisted suicide (自殺幇助 幇助自殺)という場合には、
あくまでも決定的な行為を本人が行う自殺の幇助行為しか含まないが、

assisted dying (死の幇助 幇助死)という場合には、
そこに安楽死や慈悲殺までが含められる幅の広さがある。
(ちなみに「慈悲殺」は法律用語ではなく法的には「殺人」)

また、日本の議論にもそういう言い変えが少しずつ混じり込んできているようなのだけど、
さらに消極的安楽死(延命の差し控えや中止)までをそこに含めることもあり、
そうなると一体何の話をしているのか曖昧なまま議論が進められてしまうリスクが大きい。



それから、もう一つの注目情報は、

France and Spain are currently considering a reform of their laws.
フランスとスペインが現在法改正を検討中。


フランスとスペインと聞くと、どちらも、
例の「救済者兄弟」が既に生まれている数少ない国のうち2つだな……と連想する。

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それはともかく、
この記事から事実関係のみを再確認的に拾って整理しつつ、
当ブログの関連エントリーをリンクしてみる。

(いずれも関連エントリーが多数あるため、なるべく見つけられる限り直近で
その他のリンク一覧を含むエントリーを挙げました)


英国人が初めてスイスのDignitasで自殺したのは10年前。
末期がんの男性だった。息子と娘に付き添われて死んだ。

その後、現在までにスイスで自殺した英国人の人数は180人以上。
2002年から平均して毎年18人の英国人がスイスで自殺している。
付き添っていった家族で起訴された者はいない。



Dignitasで自殺した著名人としては、
Anne Turner医師、Peter Smedley、Jackie Meacock。

また、その10年間に起きた主な訴訟としては
Diane Pretty, Debbie Purdy, Tony Nicklinson の訴訟がある。

ダイアン・プリティ事件 (arsviサイト)
Debbie Purdyさんが本を出版(2010/3/22): 関連は末尾にリンク一覧
Nicklinsonさん、肺炎で死去(2012/8/23): 関連は冒頭にリンク一覧


Purdy 訴訟を受けてできたのが10年2月のDPP(公訴局長)のガイドライン

が、このガイドライン
あくまでも近親者による自殺幇助の起訴をめぐる判断基準を示したものにすぎず、
自殺幇助はあくまでも1961年の自殺法で14年以下の懲役刑とされる違法行為である。



英国医師会、PG学会、緩和医療学会は法改正に反対の立場。
2006年の英国医師会の調査では7割が法改正に反対。



政府は2008年に終末期戦略を刊行し、
終末期医療に関して患者の選択肢を広げることを目指した。

Peter Sanders医師が率いるCare Not Killingなど反対運動が展開される中、
作家のTerry PratchettがDignitasで自殺する英国人男性に密着して
BBCのドキュメンタリーを作るなど、
自殺幇助合法化キャンペーンも活発に展開されている。



また、Pratchettが資金を提供して立ちあげた独立の委員会
the Commission on Assisted Dying (幇助死に関する委員会)から、
終末期のケアの保障と弱者保護のセーフガードを前提に
患者には死をめぐる自己決定が認められるべきだとの報告が出されている。



ちなみに、BBCは露骨な合法化ロビー報道で批判されて久しい ↓
「BBCは公金を使って安楽死を推進している」と議員らが批判(2010/2/5)