“Ashley療法” Tom のケース

トム(仮名)は赤ちゃんの時にベトナムから養子にもらわれてきた。
現在12歳。重い脳性マヒがある。

認知能力は生後2カ月程度で、生活は全介助。

8歳の誕生日を前に08年10月に始めた成長抑制療法を間もなく終える。
現在の体重は32キロ。身長は134センチ。

世界で初めて“アシュリー療法”を受けた男児と推測されている。

母親は50歳で、
息子に思い障害があることを知ったのはトムが2歳の時。

生涯、座ることも歩くことも食べたりしゃべることもなく、
けいれん発作で命を落とすこともあり得ると知らされ、
この子のためなら何でもやってやろうと誓ったという。
成長抑制は、その誓いの一端でもある。

「8歳児ががんになったら、迷うことなく化学療法をやるでしょう?
医療はどんなものだって神を演じることですよ。自然に逆らうのだから。
そういう問題ではなく、助けを必要とする者を尊重するということ」

一家は両親とトムと妹。ヨーロッパに在住。
(国名は明かしたくないとのこと)

トムは家族といて、家族に抱かれている時が一番ハッピーで、
自分では移動できないので、ベッドから床に敷いたマットに、外の庭へと
母親が抱いて連れて行く。

こういう子は緊張が激しくて
異動させる時には体重以上の負担がかかる、と母親。

(この点は私も同意。アテトーゼ型のミュウは逆にぐにゃぐにゃで
頭部、上体、下肢がそれぞれ付いてこないため、ひと固まりの重さにならず、
背が高くなってからは介護者一人でトランスファーは無理)

成長抑制を望んで訪ねた内分泌医の初診は1時間程度になった。
障害児への成長抑制の経験はないが、
背が伸び過ぎる子どもの抑制はやったことがある、という医師に

ホルモン剤でけいれん発作が増えないか?
眠気が来るのでは? 栄養摂取に影響は? 
など聞いてみたが、答えはすべて「わからない」だった。

が、前にやった背の高い子どもへの経験で問題は起こらなかったし、
服用中は副作用のチェックをするので安全だと保障された。

エストロゲンの副作用で
胸が膨らんで乳房芽が形成されるのでは、との懸念には
医師は、もしそうなったら摘出すればよい、と。

なぜ男児なのにテストステロンでなくエストロゲンなのかを聞くと、
前者を使うと思春期が前倒しになり、ホルモンバランスが崩れる、との答え。

母親は通常なら病院の倫理委の承認なしには行わないことだと聞かされたが、
公式な許可があったかどうかについては知らないという。

「担当医の話では、まだ公式のプロトコルはないから
個々のケースでアセスメントを行う、ということでした」

トムの担当医に同じ療法を要望したアイルランド出身の母親もいたが、
自分たちの特命を望む理由には、医師が誰かを特定されたくないとの理由もある。

アシュリー・ケースで起きたバッシングのひどさがショックだったからだ。

「子どもを尊重していないという批判は当たらないと思います。反対ですよ。
矢面に立ったアシュリーの両親には辛かったと思います。
この療法を実現させるために勇敢に戦ってくださったのだから。

おかげでトムも恩恵にあずかれて、アシュリーの両親には私は生涯感謝します。
一番批判しているのは自己意識のある障害者で、
そういう人は自分の権利を意識しているけど、トムはそうじゃないんです。
アシュリーもそうじゃない。こういう子には誰かが代理で決めてやらないといけないし
代理で決めるなら、その子を愛する親以上にふさわしい人はいないでしょう」