ケベックの尊厳死委員会から24の提言:メディアは「PAS合法化を提言」と

この委員会報告については
ここ数日、ものすごい数の報道が流れていて、
いずれもタイトルを「委員会がPAS合法化を提言」と打っているのだけれど、

なんとも不思議なことに、
報告書の24の提言は主として緩和ケアの改善と地域間格差の是正に関するもので、
多くの場合には、緩和ケアの改善で対応できる、としている。

その上で、そういう対応で苦痛が取り除けない例外的なケースでは

ケベック在住の成人で
不治の病で耐え難い心身の苦痛があるターミナルな患者本人が望む限り、
医師による自殺幇助という法的選択肢もあるべきだ、とするもの。

以下の記事にはこんなくだりもある。

The committee opposes assisted suicide, which consists of helping someone die when he or she hasn't arrived at the end of life.
"Our mandate was to look at the conditions at the end of life, so we felt that it (assisted suicide) was away from our mandate," said Veronique Hivon, a Parti Quebecois member and co-president of the committee.
"We feel that society puts so much effort and emphasis to fight for life and fight against suicide that we can't send a contradictory message."

委員会は自殺幇助には反対。終末期でない人を死なせる手助けを含んでいる以上は。

「我々の仕事は終末期の条件を検討することでした。その点で我々は自殺幇助については我々の仕事ではないと感じていました。社会は多くの努力をして生きるために闘うことを尊重し、自殺防止に努めてきたのだから、我々がそれに反するメッセージを送ることはできない、と感じています」と、委員会の副委員長。


もしも、これらの委員会メンバーの発言を額面通りに信じるならば、

「委員会、PAS合法化を提唱」
ケベック政府は合法化に向け法改正を求められる」など

まるで委員会の提言が
まず緩和ケアの改善や保障を説くのではなく、
PAS合法化だけを提言しているかのごとくに書き、
緩和ケアの改善などにはまるきり無関心な英語圏のメディアは、
委員会提言の趣旨や姿勢をまったく読み違えていることになるし、
メディアがすべり坂の表面を滑りやすく道をならしているように思えてくるのだけど、

合法化に向けてロビーが暗躍しているとしか思えない事態が
このところ世界中で出来していて、何やらすべてが
政治的に動いている気配すらあることを考えれば、

報告書の緩和ケア向上云々も委員会のメンバーの発言も
単なるアリバイに過ぎないのか、とも考えてみたり。



ちなみに、この記事によると
カナダの自殺幇助合法化議論の流れを変えたケースは
1992年のSue Rodriguezさんの訴訟。


自殺する権利を求めて最高裁まで闘ったが
最期は5対4で判事の意見が分かれ、認められなかった。

Rodriguezさんは94年に医師の幇助を受けて自殺。
この医師は特定されていない。

法改正されていないなら、それは犯罪者が放置されていることになるのだから
こういうところが妙だと、私はいつも思うのだけど、

この記事の書き方だと、
幇助した医師がいたにもかかわらず、
特定もされず、従ってもちろん逮捕も起訴もされなかったことをもって、
Rodriguez事件が一定の基準を作ったことになったらしい。

つまり、ターミナルな患者の自殺を幇助した医師は起訴されない、と。

てことは、すなわち
カナダでは英国の公訴局長が作ったようなガイドライン
誰も明文化しないまま94年のRodriguez事件によって設定されたことになる?

でも、それは誰によって、どういう資格で――?