「全国介護者戦略モデル事業報告書(英国)」を書きました

英国政府は1990年の「全国介護者戦略」を08年に見直し(08年8月号の当欄で既報)たが、その際に介護者支援の新事業や既存事業の拡大など大規模なモデル事業をスタートさせた。1年半にわたって行われた全英25か所でのモデル事業について、保健省の資金提供を受けたリーズ大学の介護・労働・平等国際研究機関(CIRCLE)がアンケートや資料分析による調査を実施。このほど報告書“New Approach to Supporting Carers’ Health and Well-being: Evidence from the National Carers’ Strategy Demonstrator Sites programme”を刊行した。要約版から要点を紹介する。

概要
モデル事業には「休息(レスパイト)」「健康チェック」「NHSの枠組みでの介護者支援策改善」の3つのテーマがあり、それぞれ12か所、6か所、7か所が参加。「休息」テーマのモデル事業サイト(以下DS)では、在宅での代替えケアやオンライン予約など柔軟なアプローチによる個別レスパイトの提供、認知症精神障害者の介護者に特化した短期レスパイト事業などが実施された。健康チェック」DSでは、多機関の連携によって多様な場所で心身の健康チェックが行われた。「NHSの介護者支援」では、各種サービスの改善、ピア・サポート活動やスタッフの啓発に加えて、GP(家庭医)や病院で未支援の介護者を見つけ出し支援に繋げる方法を模索した。

パートナーシップと多機関アプローチ
 新サービスの開発を通じてチームワークが良好となり、介護者支援への意識が高まり、新たな活動や新たなスキルの開発に繋がるなど、組織間、組織内での協働関係には概ね良い影響が見られた。いずれのDSでも事業内容に応じてボランティア・セクター、NHS組織と地方自治体がそれぞれの役割と責任を担ったが、3者の連携によりモニタリング、医療と福祉の意思疎通が改善され、スタッフへの新たな介護者支援の啓発研修の機会も生れた。一方、手続きの違いや取り組みへの温度差、それぞれの資源へのアクセスの問題など、連携に向けて越えるべき課題も明らかとなった。

介護者を見つけ、関わり、活動に加えていくこと
 25のDSで支援を受けた介護者は18653人で、サービスは利用しなかったが他に28899人の介護者に接触した。多くは長年介護をしている高齢女性で、マイノリティ・コミュニティの介護者や、多様な病気や障害のある人の介護者と関わることができた。関わりを作るカギは、ターゲットに応じた柔軟なアプローチ、連携とネットワーク。マイノリティ・グループにはボランティアによるアウトリーチが有効で、ヤング・ケアラー支援では学校やユース・センターとの連携が役立った。未支援の介護者にアプローチする際は「介護者」という言葉は避ける方がよいとの発見もあった。全DSがサービスの企画や展開、評価などに介護者自身を参加させており、それによって福祉や医療の専門家には欠けた視点がもたらされた。

介護者への影響
モデル事業のサービスを利用した介護者の内、27%に当たる5050人からアンケートによって得た情報を分析した。回答者の8割は、それ以前には数時間以上のレスパイトの経験がなかった。「休息」DSでレスパイトを利用した介護者の3分の1が新たな余暇活動を始めており、「『自分自身の生活』を送れるようになり自信が持てた」「心身の健康のために始めたことがある」「専門職とのコミュニケーションが良好になった」などの報告があった。一方、レスパイトを利用しなかった介護者では心の健康スコアが悪化した。
健康チェックでは特にマイノリティの介護者への影響が大きく、4分の1が「自分の健康に対する見方が変わり運動量が増えた」と回答。ほとんどがその他のサービスにも申し込んだ。

コスト・パフォーマンス
 モデル事業の目的の一つは、最もコスト・パフォーマンスのよいサービス提供方法を探ることだった。報告書は正確な測定はできないとしながらも、モデル事業で導入された介護者支援の多くには医療と福祉でのコスト削減につながる可能性があるとのエビデンスが得られた、と結論づけている。削減効果として挙げられているのは「入院・施設入所の予防」「支援により介護者役割の維持が可能」「心身の健康問題の早期発見」「介護者の心身の健康の改善」「「連携・協働ができやすい」「GP診療の効率化」「介護者の再就労または離職の防止」「介護者間でのインフォーマルな支援ネットワークの構築」。

 これらの分析を踏まえ、報告書は右ページに示した9つの政策提言を行った。

介護保険情報」2012年2月号
連載「世界の介護と医療の情報を読む」



なお、右ページに掲載された政策提言は
サマリーではなく報告書本文を全訳したものです。

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