「脳死・臓器移植Q&A50 ドナーの立場で“いのち”を考える」メモ 1

山口研一郎監修、臓器移植法を問い直す市民ネットワーク編著の
「脳死・臓器移植Q&A50 ドナーの立場で“いのち”を考える」を読みました。

Ashley事件の周辺の「科学とテクノで簡単解決文化」の情報を読みかじる中で、
臓器移植についても拾い読みしてきたエントリーが相当数に上ってきたので
以下のように09年6月までと、それ以降の2つに分けてとりまとめてみましたが ↓


特に去年から、
臓器提供安楽死安楽死後臓器提供、DCDプロトコルの広がり、死刑囚の臓器利用など
相次いで提言される“臓器不足”解消策には非常に気がかりなものが続発し
大変大きな懸念を覚えているところです。

一方、臓器移植の話題は、私にとっては
Ashley事件の周辺で、バラで目につくニュースを「ついでに」拾っていたら
いつのまにか、それらが繋がって一つの大きな流れとして見えてきた……という
問題意識の形成過程をたどったものなので、依然として詳しい知識を欠いたままです。

その都度、MLなどを通じて詳しい方にご教示いただきながら
たどたどしく、ここまで情報を拾ってきましたが、

今回、このQ&Aを読んで、
それまで分からないままだったことや
確認したいと考えつつ放置してきたことがいくつも解決したので、
そうしたメモを中心に、この本から以下に――。

まず「はじめに」は冒頭、
2010年7月の改正臓器移植法施行からの1年間に
脳死下での臓器摘出が55例あったこと、そのうち
本人意思が不明で家族の承諾だけで摘出された例が49例に上ることを紹介。

それに続いて以下のように問いかけている。

……脳死でも、心臓は動きつづけ長く生存している人がいますが、そのことは広く知らされているでしょうか。ドナーカードだけでなく、健康保険証や免許証にも臓器提供意思表示欄が設けられていますが、記入する前にどれだけの正確な情報が伝えられているでしょうか。……(略)……
あなたは「脳死」という状態の患者さんに会ったこと、接したことはありますか。
あなたは「脳死」からの臓器摘出が、どんな手順で行われるのかを知っていますか。
(略)
本書では、厚生労働省のパンフレットでも触れられず、マスコミでもあまり報道されることのないドナーの立場から、「脳死」「臓器摘出」「臓器移植」の問題点を考えます。……(以下略)

以下、私自身がこの本で知り、特にメモしておきたい点についてのみ。

「法的脳死判定」と「一般の脳死判定」は別物である、こと。

臓器提供の目的で行われる法的脳死判定に手順や病院が決まっている(詳細はp.61-65)が、
治療方針の決定等のために行われる一般の脳死判定の場合は判定の手順は決まっていない。

この一般の脳死判定が「粗雑に」行われて
ドナー候補の患者を心停止前に「脳死」や「脳死に近い」と診断し
患者家族に終末期の説明を行うことで、心停止後の臓器提供へ誘導に使われている。

その背景にあるのは、以下のような移植医療の技術的な要請。

……ドナーが心停止する前に長時間、低血圧が続くと臓器の機能が落ちて、移植に使えなくなる可能性があります。夜間に死亡すると、臓器の輸送手段・手術室の確保も困難になります。心臓の拍動が停止すると血流が途絶えて臓器が痛み、血が固まると移植に使えなくなります。このため、できるだけ早く臓器を冷やすこと、血液を凝固させないための薬物ヘパリンを投与することが必要です。良好な状態で臓器移植を実現するために、移植医にとっては人工呼吸器を装着した意識不明の患者がドナー候補者になります。余裕を持って臓器提供の承諾を得て、臓器を早く冷やす目的でドナー候補者の生存中にカテーテルを挿入する、同時に血が固まらないようにヘパリンを投与する、さらに自然な心停止を待つのではなく人為的に人工呼吸を停止すると、臓器の状態もよく、緊急手術ではなく計画手術で臓器の摘出・移植が可能になります。
(p.66-67)

また、ヘパリンについては114ページにも

 移植可能な臓器を得るためには、心停止=血流の停止から兆時間は待てません。待つ間に臓器の機能が低下して、臓器移植に使える状態ではなくなるからです。血液を固まらせない薬(抗血液凝固剤ヘパリン)を投与しないと、心停止から二〇分程度で血液が凝固し始めます。血液が凝固した臓器を移植すると、移植患者の血管を詰まらせて即死させます。
 そこで血液が凝固しないように心停止前からヘパリンを注入します。先に心停止してしまった場合でも、臓器を新鮮に保つために心臓マッサージをしながら、ヘパリンを投与します。心臓マッサージを行うと蘇生する可能性があり、血液循環が停止した死体とは言えません。また、抗血液凝固剤ヘパリンは、脳内出血や外傷患者には致死的な悪影響のある薬(原則禁忌)ですが、そうした説明がなされているか、患者家族の正確な理解や同意を得て投与されているかどうか疑問です。

それらは臓器移植法制定よりも以前から多数行われてきたことであり、
移植法制定後も「一般の脳死判定」後に行われている、として
67-68ページにデータが挙げられています。

米国でCDC(心停止後臓器提供)をERで解禁しようという提案でも議論になっていた
「移植医療」と「救急医療」が両立しない、というのが、
なるほど、こういうことなわけですね。

心臓が止まる前から人為的な操作が行われている事実については
105ページから108ページにかけても報告事例の詳細な検証があり、

「臨死期の倫理を最も侵害しているのが
『心臓が停止した死後(心停止後)』として行われている臓器や組織の摘出です」と
112ページにもあるように、

これまで当ブログで拾ってきた「CDCの患者は本当に死んでいるのか」との
米国などでの議論の問題点にダイレクトに繋がっていく論点――。

次のエントリーに続く)