「“身勝手な豚”の介護ガイド」 5: ウンコよりキタナイものがある

誰もあからさまに口にしないけど、
これから誰かの介護を担わなければならないと予想あるいは覚悟している人が
たぶん一様に不安と怖れを感じている最たるものはウンコの始末の問題で、

まだ排泄は自立しているけど先は分からないという”子豚”を介護している人も、
これから排泄のケアまで担うのかぁ、ヤだなぁ……と
実は相当リアルに恐れているのでは?

いま実際にやっている人の中にも、
これだけはちょっと……と感じている人もいるかもしれない。

それはまったく無理のないことで、
ボクだって、男だからDNAが向いていないのか、はたまた
これまで自分が他人のウンコの始末をすることなんて想像の外で生きてきたからか、
妻がそういう段階に至った時には、ものすごい抵抗感があった。

でも、結論を先に言うと、
ウンコの問題は、恐れるに足りません。
みんな、安心して。ぜんぜん大丈夫だから。

介護者としての経験を積むにつれ、
ウンコには慣れます。ゴム手袋だってある。

介護者の一番の敵は、実は「時間」なんだけど、
(例えば、“子豚”のペースで進む時間はのろのろ・とろとろでストレスになる、
昼夜の区別がつきにくくて、一日一日が平たく際限ない時間になってしまう、
誰にも助けを求められない時間に限ってトラブルは発生する、
介護はいつまで続くか先が見えない、この「果てしなさ」が一番キツイ)

こと、ウンコに限って言うと、「時間」こそケアラーの最大の味方。

人間、日常の一部となれば、たいていのことには慣れることが出来るから不思議。
介護生活が長くなるにつれ、ウンコは日常の一部でしかなくなる。ぜ~んぜん大丈夫。

ただ、ウンコまみれになった“子豚”を発見してパニックする夜だけは、本当に辛い。

これは、助けを呼べない時間帯に大きな“子豚”に転倒された時と並ぶ、
ケアラーにとっての2大難事態の1。

ウンコまみれの“子豚”と、ウンコまみれのベッドや床の、
いったいどっちから先に手をつけたらいいのか……。

それなのに“子豚”はちっとも協力してくれないから、
“子豚”を先にきれいにしようとすればベッドや床の惨状が広がるし、
ベッドや床から先に片付けようとしても“子豚”が勝手に動いて惨状を広げてくれる。

介護者が夜中に“子豚”をドヤしつける悪行で名高いのには、
たいていは、こういうわけがある。

で、この種の惨劇を避けるためのアドバイスをいくつか。

まず、“子豚”の主治医に相談して、
“子豚”のウンコ関連の身体状態を正しく把握しましょう。
ウンコのリズムを作って惨状回避できる方法があればアドバイスを受けましょう。

次に、ボク自身がやっていることとしては、
夜中に目覚まし時計をセットして2時間おきに妻をトイレに座らせています。

一緒に寝ていて、気が付いたら自分の身体にまでべっとり……なんて事態は
夫婦どちらにとっても悲惨なので、何度か体験した後で、その悲惨に比べれば
2時間おきに起きる面倒と苦痛の方が耐えやすいと判断しました。

ウンコの他にも、介護生活には
食事介助の際の食べこぼしの惨状や、
入浴拒否する“子豚”の身体をどうやって拭くかとか身体が匂うとか、
洗濯や掃除なんかでもキタナイものは沢山あるけど、ウンコほどの問題じゃないし、
実際、そういうのは工夫次第でなんとかなることばかり。

あ、その“工夫”だけど、
あんまり「こうすべき」だとか「これが正しい」にこだわらない方がいいよ。

“子豚”と暮らしているのはあなたなんだから、
あなたたちの暮らしに一番合ったやり方を見つけられるのも、あなたに決まってる。

一つだけアドバイス

昨夜ほとんど眠れなかった、だるい、という時に、
玄関の掃除が出来ていないことが気になったら
迷わず、玄関の掃除を捨てて、寝るように――。

ケアラーにとっては、30分ずつ、つまみ食いのように眠りを補うことも大事。
また、そういう技術も身についてくるから不思議。


「大事なのは、心をオープンに、いろんなことをやってみること。」
それから、あまり気にしないことだね。

本当にキタナイのはベッドやトイレやお風呂にあるものじゃない。
本当にキタナクて厄介なことが生じてくるのは
あなたの心や“子豚”の心の中なのだから」

自分がウンコで失敗したことを理解できる“子豚”は
あれこれの感情に苦しんでしまうだろうし、

あなたが時に「階段から突き落としてやりたい」という気持ちになっていることを
敏感に感じ取れば、“子豚”だって辛い。

あなたの心にあるものが、介助の手つきをつい乱暴にしてしまったり、
つい隠微なイジワルで「おしおき」して「思い知らせて」みたりするように、
“子豚”の心にあるものが、ウンコの問題を大きくしている……という可能性だって……?

2人の心にあるものがそういうふうに問題になってきた時は
2人で孤立してしまうのが一番良くない。

もちろん抵抗感はあると思うけど、
ここはそれを振り切って、誰かに相談してみよう。