ゲイツ財団がインドで目論んでいるのはワクチン普及だけでなくGM農業改革も

ゲイツ財団が何をやっているのか、について
「慈善ってな、いろんな衣をまとってやってくるんだよ」というタイトルのチョー面白い記事がある。

07年からゲイツ財団の動きを追いかけてきて(詳細は「ゲイツ財団とWA・IHME」の書庫に)
私は、ここに書かれていることは真実だと思う。

Philanthropy can come in various garbs
By K.P. Prabhakaran Nair
Express, April 10, 2011


この記事を読むに当たっては、ちょっとばかり予備知識が必要になるかもしれないので、
当ブログが拾って来たところから以下に簡単にまとめてみる。


そして今年も、ゲイツ夫妻は先月インドを訪問。
それについては3月23日の補遺
25日の補遺28日の補遺29日の補遺
あれこれの話題を拾っているけど、今回も重点訪問地はBihar州だった模様。

ゲイツ氏が行ったからには出てくるのは、もちろんワクチン推進の話で、
23日にBiharなど5州にPentvalent5価ワクチン導入に1億1000万ドルを約束。
もちろんPentvalentの製造販売元はゲイツ氏が株主であるMerk社

で、上記リンクの記事によると、ワクチンのほかにも
Bihar州でゲイツ氏がブチ上げた大きな新企画がもう一つあったらしい。

それは the Borlaug Institute for South Asia なる組織の立ち上げ。

Borlangとは、1940年代から60年代にかけて行われた
農作物の品種改良運動(グリーン・レボリューション)を主導した農学者で
ノーベル平和賞を受賞したNorman Borlangのこと。

グリーン・レボリューションについては
こちらの日本語の解説が非常に的を突いていて、
Borlang博士は品種改良で貧困国の農業を改良しようとしたのだろうけれど、
そこに多国籍企業がわらわらと寄ってたかって暴利をむさぼったものだから、
結局は途上国の土壌を荒廃させ、貧富の格差を招いて失敗した。

グリーン・レボリューションによる化学物質の多用は
現地で癌患者の多発を招いたそうな。植物の多様性も失われたそうな。

上記記事の著者Nair氏によると(Wikipediaによっても)
メキシコで品種改良が成功した後それをフィリピンに持っていったのは
ロックフェラー財団だったそうな。

ロックフェラーが50年前にやったことを
今度はゲイツ財団がインドでやろうとしている、とNair氏は言う。

もちろん50年間に科学とテクノは進歩したのだから、
今度の品種改良は遺伝子組み換え技術(GM)で作ったタネを使う。

どうやらゲイツ財団は既にアフリカでGM農業改革をやってきているらしい。

アフリカのグリーン・レボリューション同盟(AGRA)に2億6400万ドルを出しているし、
ゲイツ財団がケニアに提供している資金の8割はバイオテク研究に使われており、
08年にはその中の2~3割がGMタネの推進と開発に注ぎ込まれている。

だから、それを今度はアジアに広げていこうという腹積もりなのだろう。

なるほど、もう推進体制はガッチリ固められているのだな、と思われることに
米国の国際開発支援を担当するUSAID(US Agency for International Development)のトップは
インド生まれのアメリカ人で、なんと、元ゲイツ財団の職員だそうな。

08年にインドの首相が渡米して友好協定に調印した際には
農業改革キャンペーン”Knowledge Initiative in Agriculture”が関与しており、
そのトップは、前大統領のBushジュニア。

またインドの農業研究カウンシルの前のトップが
今やフィリピンのマニラで国際コメ研究所の所長に雇われている。
そこの方針や予算は米国主導の国際農業研究顧問グループ(CGIAR)が握っている。

つまり、
ゲイツ財団と米政府とでアジアの農業を好きなようにできる
政治的な環境整備がちゃ~んと出来ちゃっている、ということですね。

もちろん両者とも、ただの善意のわけないでしょー。

Nair氏の記事は後半では
ワクチン問題を中心にゲイツ財団とWHOの関係についても
当ブログが書いてきたことにぴったりと重なる鋭い指摘をしている。

ゲイツ財団がカネを通じて
国際機関や医療系の研究所に影響力を行使していることによって、
科学者から多様な意見が出なくなり、国際機関の方針決定のプロセスにも影響して
意思決定プロセスが閉鎖的なものとなって透明性を失っている、と。

今年1月、
平等な医療を訴える草の根団体 the People’s Health MomentがWHOに提出した要望書で、
イノベーション知的財産権、国連のミレニアム・ゴールと同時に、
WHOの、ゲイツ財団を中心とした私的な財源への依存体質が問題視されているそうだ。

そうした依存がひいてはWHOの
薬物、診断技術その他のテクノロジーによる簡単解決への傾斜を招き、
健康に対する社会要因への対応資金は大きく削られることとなった
そして、ワクチン推進への巨大な勢力とも結びついていると、Hair氏は指摘する。

(これは、WHOだけに限ったことではないですね。
世界中をものすごい勢いで席巻していく「科学とテクノで簡単解決文化」そのもの。
同財団のゼニは世界中の科学研究機関にまるで体内を巡る血液のように浸透しているのだから。
社会的要因の軽視は Ashley事件にも、IHME の推進する DALY にも如実に表れています)

なにしろ、100億ドルを出して
「ワクチンの10年」を仕掛けているのはゲイツ財団。

しかし、ここでもゲイツ財団とビッグ・ファーマには妙な動きがあって、

ゲイツ財団が作らせ支援しているthe Advance Market Commitment(AMC)なる組織が
買い上げ、慈善と称して様々な国に届けているワクチンは
ラクソとかファイザーなどビッグ・ファーマの製品で、しかも
欧米市場で売れまくって既にコストが回収できたワクチンなのだという。
慈善の名目で、インドなどの政府は自己負担分を体よく吐きださせられているだけだ、と。

本当にインドのために慈善でやるのなら、
どうしてインド国内でワクチンが製造できるようにさせないのか、と。

(この点は、ゲイツ氏もこの前の訪印で開発や研究者を支援するとは言っていたけど、
仮にインドで開発されようと、ゲイツ財団のひも付きであることには変わらないし、
インドで研究者が育ったら、息のかかった先進国の研究機関に引き抜いていくんだろうし。

それに「ワクチンの10年」て、次々にテンポよく新手を繰り出していくことにウマミがあるわけだから、
新興国の開発技術が先進国のビッグ・ファーマに及ぶわけもないのは分かり切っているし、
むしろ開発技術よりも、その途上の実験場と、開発後のマーケットがほしいのがホンネ。

だからNair氏がいうようにインド国内で製造させたとしても、
問題の本質はもっと根深いところにある、と私は思うな)


ほらね――。

だから、やっぱ、私が睨んだ通り ↓