ゲイツ財団がコークとマックに投資することの怪、そこから見えてくるもの

2月から3月の頭にかけて、
ゲイツ財団とビル・ゲイツの年次報告書や今後の方針が相次いで発表され、
同時に財団やゲイツ氏のポートフォリオが公開されて
あちこちで話題になっていた。

私は経済に全く疎いので、
読んでもさっぱり分からないことの方が多いのだけれど、
そうした記事の中に、いくつか興味を引かれた個所があった。

まず、以下の記事で書かれていることとして、

「Bill Gatesといえば、マイクロソフト創設で富を得て資産を増やしてきた人というイメージだが、
実際には彼はCascadeという投資会社をもつ投資家であり、その投資を通じて資産を増やしてきたのだ」

A peek inside billionaire portfolios
The Globe and Mail, March 3, 2011


実はその数日前の夕食時に、以下の記事から、
私はこんなことを話題にしていた。

「ねー、ゲイツ財団が去年コカコーラとマクドナルドの株をごっそり買ったんだってさぁ。
なんで今さらコークとマックなんだろうね。コークなんか飲んでいる人、今そんなにいる?」

もちろん夫婦のいずれも経済オンチなので、話はそれだけで終わった。



そうしたら、不思議なもので、
たまたま今ちょっとずつ読んでいる本の中から、
全くの偶然に、その疑問の答えが飛び出してきた。

生きていると、時々こんなふうに、
誰かが空の上で見ているのかしらん……と思いたくなるような、
「あたかも仕組まれたかのような偶然、まるで必然のような偶然」が
どこからか降って落ちてくるから不思議――。

で、その本とは、これ ↓


ごく大雑把な内容は、

欧米先進国で製薬会社に対する不信が高まり、
募っても治験に参加してくれる人がいなくなった。
それでも新薬への期待もマーケットも大きい。
そこでビッグ・ファーマがこぞって貧しい途上国に治験の場を移し、
医療アクセスの不備と貧困とで治療を受けられない病人の弱みに付け込んで、
世界で最も貧しい人たちをモルモット代わりに使っている。
先進国でならあり得ないような非人道的なやり方で。


そのための各種規制緩和がどのように行われたか、
推進サイドと批判サイドから、それぞれどのような声が出ているか、
ここ数年の医学論文のデータや議論を丁寧に引きながら、
その実態を克明に描いている。

いちいち驚愕の内容だけど、私はまだ最初の方しか読んでいない。
もちろんゲイツ財団やゲイツ氏について書かれたものではないし、今のところ言及すらもない。

そんな本の中で、
たまたま上記のようなポートフォリオ情報に触れた直後だった私を
いきなり金縛りにあわせた個所とは、以下のくだり。

Just as health care systems are being dismantled, multinational tobacco, soft drink, and fast-food companies have rushed into the emerging markets of the developing world, eased by international trade agreements forged throughout the 1990s……(略)………Coca-Cola aimed to become the number one beverage on the planet, buying up water licenses in poor countries where they could sell their nutritionally valueless drink for less than the price of a glass of clean water. McDonald’s spread its inexpensive, fatty, high-calorie foods across the globe, with four of its five new restaurants opened daily outside the United States.
(p.13)


先進国のビッグ・ファーマが治験の舞台を途上国に求めたことは
現地の医療制度を崩壊させているのだけれど、その一方で起こっていることは

1990年代に相次いだ規制緩和の国際貿易合意によって
新興マーケットと目されることになった途上国への
タバコ、ソフトドリンク、ファスト・フード多国籍企業の急速な進出。

コカコーラは貧困国の水の権利を買い占め、
コークを水よりも安く売ることで世界一の飲料に仕立てようと目論んでいる。

マクドナルドも世界中に店舗を日々続々と新規オープンしては
高脂肪・高カロリー食品を世界中にばらまいている。
今や日々オープンする新規店舗の5件に4件は米国外だという。

まさに「これぞグローバル強欲ひとでなし金融資本主義の真実!」というような話なんだけれども、

それだからこそ、
去年、コカコーラとマクドナルドに投資しようと考えた人が、
こうした企業のこうした戦略を知らないわけはない。

その戦略を知り「これは間違いなく儲かる」と踏むことから
その人の投資行動は生まれているはずだ。


先進国では子どもの肥満が社会問題となり、
その対策がしきりに取られている。

いかに肥満が各種病気を引き起こしているか、
研究データは毎日のように繰り出されてくる。

その反肥満キャンペーンの過激さは、
子どもの肥満に問題意識がない親が親権をはく奪される事件が起こるほどだ。
「科学とテクノで簡単解決文化」の背後の利権は、ここでもすばしこく、
ヤセ薬も次々に解禁されていく。


それほどの“不健康の代名詞”であるはずの肥満を途上国にばらまき、
貧しい人たちの健康をさらに害して利益を上げることに血道を上げる多国籍企業に、
その儲けを当て込んで投資する同じ人が、

一方では、
途上国の医療と栄養の不足という問題への対処を表看板に高く掲げて
貧しい人たちを救うために世界中の金持ちにゼニを出せ、とキャンペーンを張っている――。

彼はまた、自分がワクチンで救おうと呼びかけている途上国の人たちに
非人道的な新薬実験を行っているビッグ・ファーマの株主であったりもするらしい。
(HPVワクチンのメルク社の株主だという話をどこかで読みましたが、
この情報は、私自身はまだ直接に確認できてはいません)

【追記】
その後、こんなのが出てきました ↓
ゲイツ財団はやっぱりビッグ・ファーマの株主さん(2011/3/28)


――そんなふうに、ぐるりと金が回って繋がるカラクリのことを「慈善資本主義」と呼ぶ。

が、多くの場合、人はこのカラクリにまでは目が届かず、
そのため「資本主義」の部分が抜け、「慈善」だけで彼をたたえ、ほめそやす――。

そして、
そんなふうに高く見上げて手を叩いているうちに、
いつのまにか、ぐるぐる回って増えた彼のゼニは
世界中の研究機関にメディアに外交ルートに回り
人体を巡る血液のように世界の隅々にくまなく浸透していって
国家や国際機関に匹敵もしくはそれすら凌ぐほどの発言権、影響力を
一人の個人にもたらす結果を生み出している――。

それって、とても危険なことではないのでしょうか?

「愛と善意の人」という不動のイメージの陰に
一緒に潜んでいる人たちがいないわけもないと思うのだけれど。